あの子が...

 Jリーグルヴァンカップアビスパ福岡が優勝しました。予算規模が3倍もある浦和レッズを倒した見事な采配を見せた長谷部茂利監督。歓喜に包まれる彼の姿を見て感慨もひとしおでした。

 長谷部君(笑)を初めて見たのは彼が小学生の時。横浜市の古豪・FC本郷のキャプテンでした。私が審判を担当した試合、開始前のトスに先立って両チームのキャプテンと握手をした時、目鼻立ちのはっきりした顔、キキリとした眉、子どもとは思えない引き締まった表情で固く握手をしてきたのが彼でした。小学生にしてもう既にリーダーとしての風格がにじみ出ていたという記憶があります。

 その年、私の率いるチームが市の大会の決勝に進みました。会場は天然芝が素晴らしい三ツ沢球技場。対戦相手は長谷部君率いるFC本郷でした。長谷部君はMFとして運動量豊富に働き、ボール際の厳しいブレーで我がチームの特徴を封じ込めました。当方の0-1の敗戦でした。あれから四十年…。精悍な表情をしていた少年はシルバーグレーの「イケおじ(笑)」になって、その采配力でビッグチームを屈服させました。

 長谷部監督と言えば思い出されるのが名古屋グランパス戦での「お返しゴール」。負傷のために蹴り出したボールを相手側に返すという世界共通の「不文律」を守らずに得点を挙げた際、次のキックオフで「守備放棄」を指示、敢えて相手に1点を取らせる措置を取りました。

 このプレーには伏線がありました。アビスパのGKとDFが味方同士で衝突し、脳震盪を起こして倒れている間にグランパスの選手が得点を奪うというシーンがあったのです。アビスパの外国人選手がそれに対する仕返しのような気持ちを抱き「それならこっちもやらせてもらう」と不文律を破ったのでした。

 アビスパは当時、順位的には厳しい位置にいて、その試合も結局2-3で敗戦になっています。何が何でも勝ち点がほしい試合だったでしょう。それでもフェアプレーの精神にプライオリティーをおいた長谷部監督。あの少年時代のキリリとした眉と濁りのない瞳を思い出しました。

 そして今回のルヴァンカップの快挙。長谷部くん、よくやった。横浜少年サッカーの誇りだよ!!