豪胆なFWよりも草食系MF ?

 先日、Jユース出身の有能な選手が「やりたいのはボランチ。だけどいつもFWをやらされてきた」と不満げに語っていました。

 私が「日本サッカーは一億総MF化した」と言い始めてすでに20年超。その傾向は未だ続いている感じがします。ピッチの中央付近でパスを配給し、ゲームを組み立てる主役に見えるMFを志願する選手は少なくありません。

 そのような選手は大抵はチームの中でも能力が高い方の選手であることが多いようです。私はそのような選手の志願に安易に同意しません。「ボランチ」と呼ばれるその役割にはいろいろな側面があり、そこには若い時期の経験がプレーヤーとしてプラスにならない点もあると考えるからです。それは以下の三つです。

①ボールを受ける位置が比較的プレッシャーの甘い地域であることが多く、隙あらばボールを 奪ってやろうとする相手選手の強いプレッシャーに晒される緊迫した場面よりも、前を向いてゆったりとボールを保持できる場面が多いこと。

②相手守備を打ち崩すパスよりも「とりあえずつないでおく」というパスが多くなり、リスク回避の心理が優先されがちになること。

③相手のプレッシャーが強くボールを奪われそうなときには、安易にDFやGKにパックパスをして「逃げる」選択をしがちなこと。

もう「神話の世界」になりつつある釜本さんのプレー。膝の高さまで蹴り上げてくるタックルでもなんのその、という感じで強烈なシュートを放っていました、

 いずれもプレーの選択肢としては持ち合わせねばならないことの一つですが、早くからそんなプレーに慣れさせてしまうと、自分が「心地よく」プレーできる選択、「リスクの少ないプレー」の選択しかせず、ハイリスク・ハイリターンのプレーにチャレンジしない選手ばかりが育つ懸念があります。

 一方FWにはハイリスク・ハイリターンの性質があります。相手が必死になって阻止しようとするところを突破して得点を狙うのですから、着実な線ばかり狙っていては何も得るものはありません。とても難しいことが解っていても敢えて挑む、という強いマインドがなければ成立しないポジションです。

 ですから私は、能力の高い選手ほどFWに置いて、難しい態勢、不利な状況、困難な場面でも「なんとかする」技術と胆力を伸ばさなければならない、と信じてきました。

 しかし選手は相手にストップされたり潰されたりする場面の多いFWを避け、比較的プレッシャーが緩く心地よくプレーできる「ボランチ」を志望することが多くなりました。その結果、パスはよく回るものの、誰も相手DFを打ち砕こうとする勇敢で強気のプレーをしない、という状況が日本中で見られるようになっています。

 冒頭に紹介した選手を指導したユース時代のコーチが彼の能力の高さを見込んで、あえてプレッシャーのキツイFWに置こうとしたのか、それともMF志望ばかりでこれという選手がFWに不足していたので彼にその役を任せたのか、真意はわかりません。いずれにせよ能力が高くても「オレが先頭を切って点を取りに行ってやる」という強い意志のある素材は少なくなっています。

 得点を狙ってギリギリのところでしのぎを削る、というのがサッカーの醍醐味だと思いますし、だからこそ最前線で相手DFの激しい守備と勝負するFWが面白く、得点の喜びも味わえると思うのですが、今の若い選手たちは技巧的にパスを回すことの方が楽しいようです。

 前線に攻め込んでも相手にストップされる場面が多くなると、「なにくそ、今度はやっつけてやるぞ」と闘志を燃やして挑み続けることよりも、厳しいDfを避けてプレッシャーの緩いエリアに下がってきて、リスクの少ないプレーばかり選択するようになる選手が多くなりました。私に言わせれば、そんな何の役にも立たないパス回しに絡んでも、選手として得るものはただの一つもありません。残るのは「とりあえずミスをしなかった」という自己弁護だけです。

 失敗を恐れて挑戦を避け、勝負から逃げていて、一体、サッカーの何が楽しいのか私にはさっぱり理解できません。