今井むつみ・慶応大名誉教授の調査によると、「1/2」が0から1までの数値直線の真ん中であると認識できた5年生は50%以下だったそうです。また、「1/2」と「1/3」はどちらが大きいか、という問いへの5年生の正答率は49%だったそうです。中学生に「1/1000+1/1000の答えに最も近い数を0、1、2、2000の中から選べ」という問いに対しては、最も多くの中が2000と答え、正答率は30%程度だったそうです。
調査された小学生も中学生も、それぞれのレベルで学校の「分数」に関わる計算テストには正しい答えが書けています。しかし、このように少し角度を変えて「分数を構成している概念」を問われるような問題を出されると、拍子抜けするほど、とんちんかんな答えを出してしまうのです。
これは、一定時間内に回答を出す計算の「術」は身につけていても、その背景にある本来、身につけているべき「数学的思考」が身についていないことを示しています。答えは出せるが意味はわかっていない、ということです。
私が指導するサッカーにも、似たような現象があります。小学4年生くらいまでは、子どもがプレーの「意味を」理解するか否かには関係なく「勝つ」という結果を得ることができます。生来の運動能力(速さ、強さ)や体格、勢いがあれば、勝率は高くなります。しかし、5年生以降の高学年ではプレーの「意味」を理解しているか否かが大きく影響してきます。

「意味」を理解してくると、速さ、強さ、体格差、勢いなどに対処する方法が駆使できるようになります。予測をする、先手を打つ、出方を見る、力を入れるポイントを絞る、などのことを会得して、より「賢く」プレーできるようになるのです。「なぜ今そのような動きをするのか」「今ここでどうすればいいか」などの「プレーの意味」を理解することで、できることの幅が広がっていくのです。
ただ早く計算の答えを出すだけでなく「なぜそうなるのか」を理解していないと「算数」を学んだ意味がないように、ただ勢いで勝ってしまえばいいのではなく「いかにプレーするか」を学んでいかねば、良いプレイヤーになれないのです。
やっかいなのは、子どもたちの周囲にこうしたことを理解していない大人がいる場合です。特に4年生までに一定の勝利の成功体験があり、その勝利が運動能力や体格などの影響が強かった場合には、この切り替えにとても難儀します。大人の方が成功体験に固執してしまい、新しい境地を学ぼうと試行錯誤している子どもに「なぜ以前のようにガツガツ行かないのだ」と不満をぶつけてしまうのです。
周囲の大人が口うるさいほど、子ども本人が自ら学ぼうとする主体性はしぼみます。自らの判断よりも「大人にどう見られているか」が気になる子になるのです。そんな子は「できるだけ大人に喜んでもらういい子でいたい」と忖度して行動します。大人が口出しする頻度が高い子どもほど、忠実な飼い犬のように顔色を伺う癖がついていきます。
大人が目前の勝利、結果を求めて子どもに口出しするほどに「1/2+1/3の計算は早く正しくできるけれど、どちらが大きいかは理解していない」という子を生み出すのです。状況が変わっても「以前、勝っていた時と同じ方法」を繰り返すことしかできない、いわゆるサッカーIQの低い子を量産していくことになるのです。


