日本のスポーツの夜明け

 2023年はスポーツの明るい話題に溢れていました。

 まず野球のWBC。各チームのエース級がフォア・ザ・チームに徹した姿が印象的でした。もちろん、村上選手や吉田選手の打撃、源田選手の頑張りなどなど感動プレーを上げればキリがないのですが、私は特にあの超スーパースター大谷翔平選手のバントに度肝を抜かされました。「自分のプライドよりチームの勝利にプライオリティがありました」と、一千億円!!!!の価値をつけられた男の言葉。

 そして全国の子どもたちへのグローブ寄贈。もう神の領域。同じ稼ぎをしても女性タレントと豪遊したりロケット乗って悦に入っているどこかのシャチョーさんとは人間の品格が別次元ですね。世の億万長者たち、自分の卑しさがはずかしくて眩しくて画面の中の大谷選手の顔をまともに見られないんじゃないですか?

 バスケもすごかったですね。「高さ」という如何ともし難い物理的な壁に阻まれていた種目。しかしそこで2m超えの相手に向かって大活躍したのが172cmの河村選手と188cmの冨永選手。アジリティ、クイックネスに裏付けられたボールテクニック、パスセンス、クレバーな戦術眼、そした3ポイントシュート...もう芸術の域です。もちろん、野球の大谷選手、ダルビッシュ選手のように一流の現場の経験を伝え、自らの背中でチームをリードした渡邊選手の存在も感動的でした。「世界と戦う日本のバスケ」のイメージが見えた気がしました。

 男子バレーも良かったです。70年代に世界を席巻して以来、勝負強さという点でいつも失望していましたが、変貌しました。石川選手、西田選手の破壊力、決定力は凄まじい。強敵相手にバシバシと決めまくる。「ここが勝負」というところで以前はブロックに止められたり自らミスしていたことが目立ったのですが彼らはズバリと決めてくれる。イケメンの高橋蘭選手も大事な場面で期待通りの活躍をしてくれる。そしてチーム全体でサーブがよく、以前のようにミスして流れを取り切れずに終わることが少なくなったどころか、相手のレシーブを崩して攻勢を取る一因にもなっていました。

 サッカー日本代表、個々の選手が海外で活躍しましたし、代表チーム自体も好調でした。三笘選手、久保選手、伊藤選手、遠藤選手、冨安選手...今や選手たちは以前のように「学びに行く、経験を積みに行く」のではなく、堂々と「外人助っ人」としてチーム強化の一環として受け入れられ、チームの中心を担っています。ドイツ、トルコとの連戦で選手をほぼ入れ替えて戦っても連勝するなんて、私の若い頃には想像できなかったことです。どんな相手にどんなやり方で対抗されようとも、誰もが自分らしさを発揮しつつそれに対応した戦い方ができるようになりました。「自分たちのサッカーをするだけ」と言っていた時代からずいぶんと進化したものです。

 陸上・やり投げの北口榛花選手、体格とパワーがモノをいう投てき種目での世界一は快挙です。バスケ同様、日本人、特に女性は世界と戦うのは難しいとされていた世界です。自らチェコに渡って現地コーチの指導を仰ぎ、骨格と動作解析から理想的な姿勢、力の伝達方法を研究しての成果です。スポーツは医学、科学に基づいた工夫と合理的、科学的な努力が大切であることを証明してくれました。北口さんの姿勢を日本のあらゆるスポーツ指導者が参考にしていただきたいと思います。

 年末を締めくくってくれたのはボクシング井上尚弥選手。2階級で4団体統一チャンピオンの偉業。この欄でも何度か取り上げていますが、ボクシングというスポーツに内在する技術、体力、戦術をはじめとして、あらゆる部分での進化の可能性を隅々まで妥協なく追求しているという印象があります。格闘技界の世界遺産とでもいいましょうか。もしも格闘技の世界にノーベル賞のようなものがあったとしたら授与してあげたい。彼の「戦い」にまつわることの全てがあまり合理的に洗練されているので、口汚く罵りあったり、威嚇し合ったり、挑発し合ったりして、野蛮さや獰猛さをアピールしている他の格闘技関係者の行為が、幼稚で低レベルに見えて仕方がありません。

 こうして素晴らしい活躍の数々を振り返ると、世界を相手に結果を出しているアスリートには共通するものが見えてきます。スポーツを科学的にとらえ、データ分析や理論に裏付けられたトレーニングを行い、休息や栄養摂取を適切にとり入れ、メンタル面の調整にも気を配り、合理的なスケジュール管理を行う。そして限界を極めるために、誰に指示されるのでなく、誰の顔色をうかがうのでもなく、あくまで主体的に「自らの強い意志」でそれに立ち向かう。皆さん、クレバーで賢く人格も良い。

 スポーツバカでは世界とは戦えませんし、勉強か?スポーツか?などと古式ゆかしい考え方の中でも世界とは戦える人材は育ちません。スポーツだけで世間を渡るような人生でも、勉強に絞って進学に賭けるような人生でも、こじんまりと日本のムラ社会に収まるだけのことだと、世界と伍して戦ったアスリートたちは教えてくれている気がします。来年以降、スポーツだけでなくいろいろな業界で「世界基準」で活躍する人材が輩出されるといいですね。