W杯-6

 世界200カ国以上のFIFA加盟国の中から激戦を勝ち抜いた32カ国が参加できるW杯。そこでさらに半分のチームが敗退して迎えるベスト16からベスト8へのステージ。弱いチームなどあるはずもなく、多士済々が紙一重の差でひしめく世界です。

 こうした戦いで勝負の命運を分けるのは、岡田武史・元監督が言う「ちょっとしたことの差」。それはパスミスとか、空振りとか、不要なファウルとか、誰が見ても明確にわかるミスではなく、TV解説中に同氏が言っていた「『行くべきところに行かない』ような一見、わかりにくいミス」。

 この試合の勝負を分けた直接的な原因はそれ。つまり、失点となったクロスを上げられる前の鎌田選手のボールホルダーへの寄せの甘さ。

 それは、例えばドーハの悲劇の時のカズのタックルのように、懸命に体を投げけ出しても防ぎきれなかった、という類のものではありません。行こうと思えば行けたはずのプレー、つまり意識の問題。危機感乏しく、なんとなく足だけ出したという緩慢なプレー。

 鎌田選手、前半から守備、緩かったですね。モドリッチの裏への抜け出しを無抵抗で許しすぎていました。「オレじゃないよ。そこは長友さんでしょ」とでもいいだけな無責任な動き。それについては結果として大事には至りませんでしたが、そうして「結果オーライ」でごまかしていると、いつか大事な場面にツケが回ってきて痛い思いをする。それがクロスを簡単に許した場面に出たわけです。

 この緩いプレーのために、せっかくのリードを台無しにされてしまいました。結果としてPK負けするわけでから、この失点を生んだ場面でクロスのキッカーに何一つストレスを与えられなかった(できない状況ではなく、意識の問題だけでしなかった)鎌田選手の責任は一番重いでしょう。

 例えば富安選手が自陣右サイドでもたついて奪われたプレーを筆頭に、双方にいくつもの「してはいけない」ミスはありました。しかし、それを、どれくらいしてしまうか、どういう場面でしてしまうか...の差です。「してはいけない」ことを日本は决定的な場面でしてしまったということです。紙一重の勝負では、そういうことをした方が負けです。

 裏返すと、そういう千載一遇のチャンスを決め切れたクロアチアのクロスの精度とヘディングシュートの強さは見事でした。日本のプレスは試合を通じてまずまず機能していたのですが、それが緩んだ一瞬、その千載一遇のチャンスを生かしたわけです。

 思い出してみれば、初出場98年フランス大会でクロアチアに0-1で負けた時も、日本は結構、優位に試合を進めていたにもかかわらず、ワンチャンスをシュケルに決められたのでした。歴史は繰り返しました。

 ヒヤヒヤさせなかせらも丁寧につないだ日本のビルドアップは、まあまあ良かったと思います。ただし、そうやってボールを大事にしてつないでも、最後にFWが受ける力がなければポゼッションも無味になります。浅野選手、残念ながらほぼ100%競り負けでしたね。ボールが来てもほとんどロスト。前を向けてもファーストタッチで簡単に相手に渡してしまう。そもそも得意なはずのスピートでも負けている。この程度の選手がトップを張るようではベスト8は無理でしょう。

 エムバペ、ケイン、メッシ、ネイマール...ベスト8に名乗りを上げた国々には、前線に頼りになる選手が必ずいますよね。敗退したポーランドにはレバンドフスキー、韓国にはソン・フンミンがいて、チョン・ギソンという新星も出てきました。疲労が明らかなクロアチアDFに効果的なプレーが何一つできなかった浅野選手とはあまりにクオリティーが違いすぎますね。このポジションにどういう選手を置けるかがベスト8への鍵と断言できます。

 前田大然選手、献身的な貢献を続けてきたからこそ最後に神様がご褒美をくれましたね。今回は、ほぼ守りに走らされましたが、最後にFWとしての一仕事しました。

 そしてPK。メンタル弱すぎ、キック下手すぎ。視線や動作も含めて、駆け引きのかけらも感じられませんでした。日本のキッカー「負のオーラ」全開でしたね(笑)。

 岡田氏がため息交じりに語った「まだ足りないということですかね」という言葉が全てではないでしょうか。やはりベスト8に相応しいものが備わっていないのです。