「ガクチカ」が示す学究の貧困

 「ガクチカ」なる言葉があるそうです。学生街の地下街? いえいえ「学生時代に力を入れていたこと」を縮めた言葉だそうです。

 なんでも、就活の際に企業の面接者から必ず聞かれることなのだとか。だからガクチカは何だったかという問いに立派な答えを返すべく、学生たちは「こんなバイトをしていました」とか「サークルでリーダーをしていました」といった逸話を用意するのだそうです。

 ところが、コロナ禍でバイトの口は減り、サークル活動も自粛が続いたために、自慢して話せるガクチカがなくなってしまった、というのが昨今の就活学生の悩みなのだとか。

 このエピソードを知って、改めて日本の大学生活のレベルの低さを確認しました。日本は、大学時代は本業の学業は二の次、三の次で、その他に何をしたかの方が大切、ということが公然となっている社会ということです。

 本来、大学で自分の専攻を極めていくことはかなり大変です。本当にとことん専門領域に取り組んでみようと真面目に向き合えば、学業以外に熱心にできることなどさほどないはずです。幸い、私は指導教授の厳しさに恵まれ、原書を読まされたり、短時間内に専門書の読破を求められたり、テーマを決めて小論文をまとめさせられたり、と随分絞られ鍛えられました。だから今でも「一番勉強したのは大学時代」と胸を張って言えます。

 私が「あなたのガクチカは何でしたか?」と問われたら。「何でそのような愚問を発するのですか? 大学時代に最も力を入れたのは勉強、研究活動に決まっているではないですか。どうして「君の専攻は何で、卒論のテーマは何で、どのように資料を集め、論理の構築にはどのような苦労がありましたか?というまっとうな質問をしてくれないのですか?」と返してしまうかもしれませんね(笑)。

 でも、そういう学生は落ちる。私もかつてある大企業の役員面接を受けたときに、東大生、北大生には知識、学識を問うような質問をしておきながら、私の番になって急に「サッカーの話」になり、面接者がハナから「こいつは勉強よりもスポーツばかりやってきたのだろう」と決めつけていると感じて、自己主張満々の返答をして見事落選(笑)という経験があります。まぁその大企業は後に社内不正が発覚して社会的信用が失墜したので、結果として「行かなくて良かった」と負け惜しみを言っていますが(笑)。

 でも考えてみれば、面接をする側も自分が大学時代、学びもそこそこに遊びふけっていて、結局、勉学の成果ではなく学閥で入社しているのですから、「君の研究テーマは何ですか?」などと聞けた立場じゃないわけです。そもそも学生時代に勉強していないヤツが入社後に自社の業務以外のことに見識を広めているとも思えないので、学生の専門領域に関する返答に二の矢、三の矢を向けて質問を発することができるほど広範な知識もないでしょう。「ガクチカは何ですか?」くらいしか聞けないのも当然です。

 そういえば、誰もが知っている名門私立大学に進学した私の同級生も、当時、学校にはほとんど行かずにバイトに明け暮れ、稼いだ札束を自慢げに広げて見せてくれいたっけな~。そんな世代が今、役員、経営側になっているわけだから、勉学内容よりもガクチカで勝負という価値観が行き渡るのもしかたがないかもしれません。勉強ではなくガクチカを充実させるために何百万円も支払って大学に進学する...これでいいんですかねお受験ママ・パパたち?