インスペクター?あるいはただの身の程知らず?

 社会人の試合では時々、審判インスペクターという人が来ます。審判の育成を担当するインストラクター資格を持つ人で、審判団が適切な判定をしているかどうか視察し、試合後、審判団と判定を振り返りながら審判技術の向上に努めます。
 インスペクターが見ている試合では、審判は評価を恐れてなのか、杓子定規なレフェリングをする傾向があります。フェアプレー、安全の確保など、本来、目を光らせてほしいところとは関係のない些細なことで頻繁に笛を吹くように感じます。やはり自分の判定に後で意見されるかもしれないと思うと、堅くなってしまうのかもしれません。
 先日、その審判インスペクターと話す機会があったので、かねてから聞きたいと思っていた質問をしてみました。
 永井「先日、少年の試合で、ハーフタイムになると本部席から出てきて審判に対して、ああしろ、こうしろ、と指図する人がいましてね。審判インスペクターなのかと思ったのですが」
 インスペクター「いや、少年の試合にインスペクターを送ることはまずないですね」
 永井「では、審判に偉そうに指示していた人は何だったんでしょうね」
 インスペクター「わかりませんね。少なくとも協会審判部の人間ではないし、一級、二級など上位の資格を持つ人間の行動ではない。ハーフタイムにレフェリングに対して何かを指示するということは、インスペクター資格を持つ上位資格審判としては絶対にあり得ませんから」  
 永井「そうですよね。ハーフタイムにああだこうだと指示されて、前半と後半で判定の基準が変わってしまったりしたら、大問題になる」
 インスペクター「その通りですね。ハーフタイム以降、自分の基準に揺らぎが生じてしまって、前半と同じ場面があった場合、瞬時にどう判定するか迷いが生じることが一番の問題です」
 永井「少年の試合にはインスぺクターは送らないとのことですが、仮にあなたが少年の試合に立ち会い、あまり上手ではない審判がいたら、どうしますか」
 インスペクター「どんなにひどい判定をしていたとしても、ハーフタイムに出て行くことは絶対にないですね、それはあり得ない。試合が終わって、落ち着いた時間になってから、全体を振り返りながらお互いに話し合うという形をとります」
 永井「なるほどね。どうしてそのような判定を下したのか、本人の言い分も聞かねばならないしね。ピッチの外で見ているのと、実際に選手の近くで見ているのと、違う視点もあるし」
 インスペクター「そうなんですよ。いくら上位の資格を持っていて、経験も豊富だからといって、絶対にこっちが正しいからオマエが直せ、なんて言い切れないですからね。一方的にオレの言うことを聞けという態度自体が、そもそもどうかと思いますよ」
 永井「ハーフタイムに審判に偉そうに指図していた人が、少なくとも上位資格者ではなく、ただの身の程知らずの“裸の王様”だったんだということがよくわかりました(笑)」