速さ、強さ、も含めた「上手さ」

 なでしこ、完敗でした。
 前半のたてつづけの失点ですが、なでしこのDFは全てコースを塞ぐところまで飛び込んで足も出ているのですが、いずれもボールは股間を抜けてゴールに飛び込みました。いかにクイックなモーションとボールスピードが大切か、ということを示しています。組織的、戦術的に正しく振る舞っていても、個々のプレーの素速さ、力強さ、という要素がそれを上回ることがあるのです。ハーフウェイライン付近からの超ロングシュートも、まったく想定外だったことでしょう。
 メディアではアメリカのフィジカルの強さばかり取り沙汰され、対するなでしこはボールを回して「上手い」サッカーができるとの評が多くあります。しかし「上手い」といっても、なでしこにはコントロールミス、バスミスはかなり多くありました。激しく競り合いながらのプレーならまだしも、フリーな状態での単純なミスです。
 一方、アメリカの選手のボールを止める、蹴る、の技術レベルは非常に高く、いつ、どこに、どのように動くかという戦術眼も確かでした。その意味ではアメリカも「上手い」サッカーができていました。そのアメリカが「上手さ」に甘んじず、厳しく、速く、強いサッカーをしてきました。これでは「上手い」だけが武器のなでしこは歯が立ちません。「上手さ」だけで「速さ」「強さ」を上回ろうとすれば、相当なレベルまで上手くならねばならないということですね。
 ボールポゼッション率では、なでしこがアメリカを上回っていました。それでもスコアは2-5。いかにしてゴールを奪って勝つか、というツボや勝負どころを知ること、そしてその場面に必用なエネルギーを注ぎ込めることも、ある意味サッカーの「上手さ」なのです。「上手さ」とはボールを保持する時間の長さではないということを示す典型的なケースでした。
 昨今の日本、バルサの影響か、上手くボール回して崩そうとするサッカーが花盛りですが、どれもみな中途半端な上手さ(笑)。自分だけ上手いと思っているのではないか...というサッカーが多いようです。丁寧にやることでかえってチャンスを潰し、より難しい状況を造っているプレーが多いですね。私が率いているチームなど、その典型的な例。どうでもいいところで相手を翻弄しても、肝心なところではあっさり止められる。そして、時間をかけて相手守備を十分に整えさせた分だけ、相手に良い形での反撃をさせて苦しむ。
 なでしこのアメリカ戦を教訓に、私たち日本人が持つ「上手さ」の概念を、もっと広げていかねばならないと思います。