理想と現実

ブラジル戦、長友選手が言うとおり「プロと中学生」という感じでしたね。香川選手が「何もできずにピッチに立っていただけ」と言っていましたが、残念ながらそれに近いものでした。

私は前々からずっと、日本がバスワーク、ポゼッションにこだわり、常に「自分たちのサッカー」をする、という理想のサッカーで世界の強豪に立ち向かうのは無理だと言ってきました。いつかどこかで実現することはあるのかもしれないけれど、当面の目標であるW杯ベスト8進出の手段として、そういうスタイルで挑むのは難しいと。それを証明した試合だったのではないでしょうか。

ブラジルは、かつて私がカルチャーショックを受けたペレの時代のブラジルではありませんでした。よりフィジカルであり、よりパワフルであり、より簡単にクロスを放り込む、そうですね、どちらかといえばドイツのようなイメージ。もちろん、だからといって細かいテクニックが落ちたわけではなく、局地戦ではネイマールが、かかとのうしろを通しながら股抜きをやったりする。

つまり、ものすごく上手い人たちが、その上手さに溺れることなく、勝負に徹して必用なことをやればあんな風になる、という姿を見せられた気がします。走力も筋力も気力も劣る側が、少しばかり「上手い」と勘違いしていると何もできない。言い換えると、君たちの「上手さ」などその程度だということを冷徹に見せつけられた気がします。

ネイマール.....ファーストプレーのファーストタッチでゴールの角にビリシと蹴れる。かたや前田、投入後のファーストプレーでこちらもゴール枠内にシュート飛ばしましたが、GKの正面。それでも、中継では解説者が「前田いいですね」と褒めて、我々も「前田、その調子でいけ」と思ってしまう。そのレベルの差。

本田が負けじ魂のようなものを出していたことは、少し頼もしく思いました。激しく寄せられてミスしたり、パスを相手に渡したりと、本田らしくない場面は多々ありましたが、とにかく、向かっていくぞ、という気迫は感じた。コワイヨ~コワイヨ~どうしよう、とビクビクしながらボールを持っていた清武とは大違い。

繰り返しますが、どう考えても、今の日本のプレースタイルでW杯ベスト8に侵出できるとは思いません。言い換えると、ベスト16に進出してくるようなチームに対してポゼッションとパスワークで上回り、自分たちのペースで得点を奪って勝つ、ということは想定できない。ブラジルがテクニックと即興の芸術的プレーで勝つという理想を捨てたように、日本も現実をしっかり見た強化をしなければならないと思います。