宮市はどこへ

 宮市亮選手が所属先トゥエンテを退団するとのこと。日本中の期待を一身に背負ってアーセナル入りしてからもう何年たつのでしょう...。レンタル移籍も含めて次々にチームを変わるのですが、残念ながら期待されている活躍ができていまんせん。
 言うまでもなく、彼の持ち味はスピードです。「ツボ」にはまった時のドリブル突破の鋭さは一流で、ビッグクラブのDFでさえ翻弄する力があります。ただ、その「ツボ」に持っていくまでのプレーが今ひとつ。基本的なポジショニング、動き出しのタイミング、ボールの受け方、ボールの置き方、突破を仕掛けるタイミング、味方プレーヤーとのコンビネーションを活かしたプレー、などなどが残念ながら未熟です。
 彼のように早くからずば抜けた身体能力があると、細かいことを気にせず放っておいても大活躍できるので、本来なら必用なことを身につけないまま成長してしまうことがよくあります。ポジショニングが悪くても、受け方がわるくても、強引に突破を仕掛ければ彼を止められる同年代はほとんどいないのですから、ガンガン行けば結果が出てしまう。そうやって高校選手権での大活躍まで行ってしまったのでしょうね。
 このスピードなら海外でも通用する、という当初の見立ては間違いではなかったでしょう。しかし、トッププロが集まる環境は甘くはありません。FWのスピードを殺すプレーなどお手の物というDFがゴロゴロといます。ならば、それをどうやって攻略し、最後に得意のスピード勝負に持ちこむことができるか、がカギになります。そこではポジショニングや受け方も含めた攻守の「駆け引き」が重要になります。
 ところが、ガンガン行けば何とかなってしまう毎日を高校卒業まで続けてしまった宮市は、その「駆け引き」の部分を深く知らないまま渡英してしまったのではないかと推測しています。受け入れ側のプロ集団は、ボールの受け方を宮市だけに一から丁寧に教えてくれるほど甘いものではありせん。ボールを奪われたら終わり、ドリブルをストップされたら終わりです。後は自分で考えろ、と放り出されるだけです。
 国内の育成年代の試合では、大きく、速く、強い子を並べておけば、どんなに未熟な指導者に率いられても簡単に勝てます。そうやって、その年代では「相対的に強い」というチームを作って勝った勝ったと奢っていると、大きさ、速さ、強さで優位に立てないチームと対峙する段階に進んで「本物のサッカーの質」で勝負しなければならなくなった時、限界が見えてくるのです。
 しかしまぁ子ども時代のチームで勝っていい気になっている指導者は、自分が気持ちよくなりたいだけで、その子どもの将来なんて全然考えずに次の世代に放り出しますからね。小学生時代に大活躍して連戦連勝でも中学、高校でパーンアウトしそのてサッカーを辞めてしまう子はごまんといますから、「本当の自分の未熟さ」さえ知らないまま終わる、というケースもたくさんあることでしょう。
 ともあれ、宮市がそうであったかどうかは知りませんが、育成年代のチームで能力の高い選手をならべて勝った勝ったと自慢している指導者諸氏は、その選手が長じて後、身につけておくべきことを身につけていないことに気付き、後悔するような状況をつくらないよう自戒してほしいですね。