ファンハール、策に溺れる

 一撃必殺の技を持つ剣豪どうしが、じりじりと睨み合うような試合でした。お互いに相手を斬る術を持ってはいるのだけれど、それを繰り出した瞬間に返し技で仕留められるかもしれないという怖さも知っている。斬りかかった時に最も防御しにくい隙が生まれる....だから斬りかかれない...。
 オランダはメッシを止めることを、アルゼンチンはロッベンを止めることを、互いに120分間、徹底しました。だから、攻防の妙は、自分たちが攻めている時に守備陣がそれぞれの相手エースをどう意識しているか、という部分にありました。カウンターはもちろん、リバウンドでさえも、絶対にいい形では受けさせない。その徹底はたいしたものでした。
 この試合の前夜、私はアルゼンチンの勝利を予想し、「なぜ」と問いかける同僚たちに二つの理由を挙げました。一つは「最後にメッシが決定的な仕事をする」。もう一つは「ファンハール監督が策を弄しすぎて墓穴を掘る」でした。
 一つ目のメッシに関しては外れましたが、ファンハール監督については当たりましたね。まず最後の交代枠をフンテラールの投入に使ったことは、きっと批判の種にされるでしょう。その交代枠をPK戦に備えてGKクルル投入に使うべきだったと散々、言われることでしょうね。
 私はそれよりも、PK戦の時に前試合で蹴っていない選手を一番手にして情報を攪乱しようとしたことがまずかったと思います。それが裏目に出て一番手が失敗し、心理的に追い込まれました。カイトが前試合とは反対のコースにキチンと蹴っていたことを考えれば、同じキッカーに託して、人によってコースを蹴り分けさせた方が良かったのではないかとも思えます。
 でも、何か手を打ちたくなるのですよね、監督とは。策が当たれば「名采配」しかし今回のように裏目に出れば「采配ミス」。アルゼンチンが3人交代したあと、サバレタが負傷して倒れた時には、3人目投入が早すぎたか...と思われましたが、サバレタは治療して何とか続行。もしそれでサバレタがアウトだったら、サベーラ監督の交代策に批判が集中したことでしょう。
 しかし...それにしても.... 観ていて疲れる試合でした(笑)。