ミリートの見せた基本

 欧州チャンピオンズリーグインテルが2-0でバイエルンを下し王座を獲得しました。インテルの2得点はいずれもミリートが挙げたものでした。
 
1点目はGKのフィードをミリートが競り合う場面から始まります。ミリートはヘッドでボールをスナイデルに落とすと、間髪を入れずに相手DFがつくるギャップ(間隙)に走り込みます。古来、言い古されている個人戦術の基本中の基本、パス・アンド・ゴー(あるいはムーブ)の実践です。ボールを受けたスナイデルは、これまた基本通りワンタッチでボールをコントロールし、ミリートが走るスピードを少しも落とすことなく受けられる位置にボールを送ります。それを受けたミリートファーストタッチも、いつでシュートを打てる場所にボールを置く見事なものでした。

2点目は攻守の切り替えの瞬間に相手DFから離れたスペースでボール受ける、というミリートのポジショニングの妙から始まりました。エトーからのボールを受けた時、ミリートとDFの間にはある程度のスペースがありましたから、彼は迷わず突破を仕掛けます。日本のFWのように「味方の数が揃うまで慌てずに」などと悠長なプレーはしません。どんどん相手ゴールに向かいます。そして、ペナルティエリアまで来ると、中央に向かうと見せかけるフェイントから切り返し、最後はしっかりゴールの方向を向いてシュートしています。

1点目はパス・アンド・ゴーと正確なファーストタッチがポイントでした。2点目は的確かつ素速いポジショニングと、仕掛ける気持ち、突破のイメージがポイントです。いずれも、難解な理論やフォーメーションではなく、とても基本的な技術、個人戦術の領域です。私に言わせれば、こうしたポイントは、論理的、教条的に教えずとも、対人競技をしていれば本来、直感的、本能的に感づくべきものです。しかし、日本では論理的、教条的な指導が多すぎて、こうしたシンプルかつ根源的な感覚が育ちにくい。

昨今、「日本人に合うサッカー」などという表現が飛び交い、我々はどういうサッカーをすればいいのか、という議論が盛んです。もちろん、そうした概念の模索も必要でしょうが、それ以前に、ミリートのプレーに象徴されるような、古来、言い尽くされているサッカーの基本、真理について地道に反復し磨いていくことが大切なのではないでしょうか。その中から、真理に最も近い、本質的な「生きた」能力が磨かれていくのではないでしょうか。

このあたり、日本語も正しく駆使できない子どもに「英語を学ばせましょう」とやっきになっている人たちに通じる部分があるような気がします。創造性や協調性などが著しく発達する子ども時代に、そうした能力を自由に発達する時間を奪って音楽だ芸術だ計算力だと教条的に整理されたものを詰め込んでいる人とも通じるものがあります。子どもは柔軟ですから、詰め込めばいくらでも詰まっていきます。しかし、それが「生きた力」になのかどうかはまったく別問題です。多分、サッカーのチーム戦術については、ミリートより日本の高校生の方が何倍も詳しいと思います。