ポゼッションとドリブル突破

 4月3日(土)に解説担当したプレミアリーグマンチェスター・ユナイテッドvsチェルシー。リーグ優勝に大きく影響する大一番でした。試合は2-1でチェルシーが勝利しましたが、その得点シーンに、現在、日本のサッカー界が最も意識しなければならない要素が詰まっていました。
 世界最高峰のリーグで首位を争うチームの対戦ですから、一方のチームがボールを保持すると、ボールポゼッションは簡単には崩れず、執拗と思われるくらいのパスが縦横に回されます。このあたり、日本のサッカー選手たちも似たようなことはしているのですが、決定的に異なるなる部分があります。それは、マン-Uもチェルシーも「パスつなぎが目的」という選手が一人もいないことです。
 彼らは常に相手を混乱させる「突破のプレー」を狙ってパスをつなぎます。彼らにとってパスは、一つの突破のアイディアが崩れた時、次のアイティアを実施するための「変更」であって、決して「逃げ」でも「放棄」でもありません。一方、日本サッカーのパスは、自分がミスせずに終わるためのアリバイづくりと思われることが多々あります。つまり、前者が攻撃の意志を多分に含むものであるのに対し、後者は保身の意志が感じられるのです。
 チェルシーの先制点は、MFのマルーダのドリブル突破からJ・コールが決めたものでした。堅いマン-Uの守備をこじ開けようとするチェルシーのアタッカーたちが何度も効果的なタテバスを拒まれ、はね返される中、次の手、さらに次の手と、パスをつないで攻撃の起点を移動させながら好機をうかがうプレーから生まれた得点でした。それは、バランスのとれたマン-Uの守備がわずかに乱れ、DFとDFの間隔が広がった瞬間に見つけられた好機でした。すかさず大胆なドリブルをしかけるマルーダのプレーが、J・コールの得点をお膳立てしました。
 0-2とリードされたマン-Uが挙げた追撃の1点にも同様の要素が凝縮されていました。終盤、マン-Uの攻撃は、丁寧さよりも力づくの様相を呈し、クロスに体を張って飛び込む、という形が主体となりましたが、その攻撃はチェルシーの屈強のCBコンビ、テリーとアレックスに何度も跳ね返されます。執拗なハイクロスが繰り返される中、チェルシーDF陣が「再びハイクロスが来る」と身構えた一瞬のスキに、MFナニはぐいぐいとドリブルで食い込んだのです。慌てて対応するチェルシーDFの合間をナニのクロスが通され、マケーダが決めました。
 ここで決定機を演出したマルーダ、ナニのドリブルに感化され「やはりドリブルは大事だなのだ」と結論づけたがるのが日本のサッカー関係者です。そして、昨日までボゼッションばかりしていた練習を今度はドリブル中心にしたがるのが日本の指導者です。しかし、マルーダもナニも、終始ドリブル勝負ばかりしていたのではありません。TPOに応じてワンタツチ、ツータツチのバスも活用しています。要は彼らが「ここはドリブルが有効」と感じ取るセンスがあり、それを実行する決断力があることがポイントなのです。
 パスばかりつないでいる日本の少年選手は、そのバスにどのような意味があるのか、感じ取っているのでしょうか。また、執拗にポゼッション練習を繰り返す指導者は、ポゼッション率が高まった後に何を実行したいのか、自分自身で理解しているのでしょうか。まさか、バスの回数が増えることに喜びを感じるという本末転倒の感性がグラウンドで共有されているのではないでしょうね?