フットボールスビリットについて

 タイトルに「フットボールスピリット」としたのは、常にフットボールに求められた精神を忘れずにいたいという私の信条があるからです。
 1863年イングランドで設立されたThe Football Association(The FA)は、それまで学校ごと、地域ごとに異なっていたフットボールのルールを世界で初めて統一しました。その際、古来、行われてきたようにボールを手で扱うプレーを許すのか否かで議論は紛糾しました。
 ハンド禁止のルールを唱えたグルーブの主張は、ハンドを許容すると選手はボールを手で持って移動するため、ボールの周囲では激しい奪い合いから粗暴な行為が連続し、それは近代化を推進するイギリスに相応しくない野蛮な行為だと考えました。ハンド容認のグルーブは、そうしたボールの奪い合いを巡る激しさこそイギリス男児の心意気なのだと主張しました。
 結局、ハンド禁止派が勝利を収め、現在のフットボールの原型が整いました。その際、近代化した合理的な考えで整備されたルールに基づくフットボールという意味から、「フットボール協会式のもの」という意味で、敢えてAssociation Footballという呼び名もつくられました。それは、Associationのssocの部分にerをつけてsoccerと縮めて呼ばれました。それが日本で使われている「サッカー」という呼び名のルーツです。
 ですからフットボールを敢えて「サッカー」と表現する時には、それまでのように負傷者、死者を出し、時の権力者から何度も禁止令を出されていた力任せの野蛮なフットボールに代わる、近代科学、合理的思想に基づくスポーツ、という意味が含まれています。
 近代スポーツとして整備されたフットボールには、大英帝国を担う人材育成の手段の一つ、という役割も担わされました。激しく体をぶつけ合うプレーの中で、ルールを遵守し、感情をコントロールし、心身の苦痛に耐え、チームメイトと協調して勝利を目指す。その中で、高いレベルの自己コントロールが求められました。崇高な精神、モラル、コモンセンスによって自らの行動を律することが重視され、それがすなわち、世界のリーダーたる大英帝国を担う人材の育成につながると考えられたのです。
 ですから、英国で整備された近代スポーツの多くはルールがシンプルです。サッカーのルールもわずか17条しかありません。事細かにルールを規定して外からの圧力で行動を縛るのではなく、自分のモラル、コモンセンスに従ってプレーしてくれ、という意志の現れです。ゴルフのスコアを自分が記録するなどというのも、こうした精神の一環です。
 日本で「サッカー」と呼ばれているアソシエーション・フットボールは、こうした経緯で生まれたものです。ですから、サッカーに関わる人たちは、1863年に「新しいタイプのフットボール」として誕生したこの競技の精神を忘れずにいてほしいと思うのです。