ワンステージ上の「ドーハの悲劇」

 ベルギーに2-3の惜敗。
 相手をしっかりと分析し、どのように戦うかの対策ができていました。グルーブリーグ最終戦での戦略的な選手起用で主力に休養を与えたため、コンディションは上々で、選手はよく走り、よく当たり、よく戦いました。
 彼我の差を恐れて最初から守り倒すことはせず、堂々と攻める姿勢を貫きました。ラッキーでも何でもなく、攻め崩して2点を奪いました。リードした後も「守ろうとしてはいけない」という意思がチーム内で共有され「追加点で息の根をとめよう」という姿勢もありました。
 つまり、これまでの日本サッカー史の中で苦悩とともに経験してきたあらゆる「してはいけないこと」と「すべきこと」を、選手たちはピッチの上で忠実に履行していたと思いますます。それでも勝ち切れないとは!!!
 93年のドーハの悲劇では「世界と戦うための試合運び」のイロハを叩き込まれました。あの痛みとともに叩き込まれたことは今、中高生でも実戦できるまでになりました。あれから25年、W杯連続6大会出場となった日本が、ドーハの時と同様、再びアディショナルタイムで演じることになった悲劇は、ベスト8以上に進むためのワンランク上のシナリオによるものなのでしょう。
 終了間際のCKで本田がもう少し慎重なキックをしたら...また、昌子が攻め上がらることがなければ...あのカウンターからの失点はなかったかもしれません。延長で仕切り直しすることよりも、わずかな残り時間内で勝負を決めることを選んだ結果です。あそこでカウンターのリスクを考え、CKのチャンスを捨てる決断は、現時点ではどの日本人もできないでしょう。
 GKのキャッチからのカウンターを受けないコースへの正確なキック、あるいは容易にカウンターを受けずに効果的にフィニッシュできるCKの攻め方....何だか無理難題を言うようですが、これからの日本はそんなレベルに課題設定せよ、ということなのだと思います。同じ状況でコロンビアはイングランドから終了間際のCKで劇的な同点ゴールを奪ってみせました(結局PK負けしましたが)。
 ドーハの悲劇と同じ予選で、フランスはもっと悲劇的な敗け方をしています。残り2試合のうち一つでも勝てばいいという状況で一敗。そしてホーム・サンドニでの最終戦、残り数秒というところで決勝ゴールを奪われたのです。現チームの監督デシャンは、その時のメンバーの一人です。
 フランスはその後、初優勝を勝ち取り、常に優勝候補の一角を占めています。今大会のフランスも非常に強力なチームです。オランダもスペインもイングランドもイタリアも皆、地獄の底に突き落とされるような苦難の歴史を乗り越えてきています。
 日本もようやく、同レベルの「悲劇」を味わうところにまで来た、と思うことにしましょう。