それもサッカー

 先日、港北FCの中学生が地元の大会で思わぬ大敗を喫しました。比較的簡単に先制点を取ったのですが、その後、信じられないことに5点を奪われました。試合内容は、よくあるバターンでした。
 港北FCがボセッションで優位に立ち何度も決定機をつくるものの、最後に決め切れないという時間が続きます。相手を見事に崩して先制点を奪ったことから、選手の間には「いつか2点目、3点目が決まる」という緩んだムードが漂います。同時に、選手の気持ちの中には攻撃する意識が大勢を占めてきます。
 相手の反撃と言えば、とにかく前線めがけてキックし、運動能力の高い選手がゴリゴリと競り合ってこぼれ球を拾い前に進む、というもの。単純明快、いたって対処が簡単なのですが、実はこうした展開は非常に危険が多いのです。
 つまり、勝てる、行ける、という心理で攻め続けるうちにカウンター受けると、選手の気持ちが「攻め」に大きく傾いている分、手堅く慎重に、着実に対処しようとする意識がどうしても希薄になります。一方、相手はその瞬間に賭けてきますので、泥臭く突進する意識では上回りがちになります。その結果、ファウルしてFKなどを与えたり、CKになったりします。
 こうした展開でFKやCKになると、一転、守りに回ったチームの選手には、なかなか高い緊張感が生まれません。ずっと攻めているから、ここで多少は攻められても何とかなるだろう、というような心理が強くなってしまうのです。その結果、劣勢にあって久々にチャンスを得たチームがFKやCKでゴール前に体を張って飛び込み得点する、というケースになるのです。
 試合はまさにそのケースの典型のような展開でした。先制点の後、カウンターからCKになりゴール前で激しい競り合いから押し込まれて1失点、その後、再びカウンターから思い切りの良いミドルシュートを決められて2失点。後半もまるで判で押したように同じシーンが続きます。カウンターから体を張られてCKになり、飛び込まれて3失点、まったく同じ形で4失点、一気にロングキックを蹴られ、DF2人とGKが体を張ったプレーにはねとばされて5失点。
 視点を変えると、相手チームは、非常に狙いの明らかな戦法がおもしろいように決まった、ということになります。サッカーの得点の多くがセットプレーとカウンターである、というデータを裏付けたような内容でした。日本代表も南アフリカW杯で、パスと機動力を活かすサッカーを捨て、しっかり守ってカウンター繰り出す戦法に切り替えたことでベスト16に進出しました。実は、私が指揮する港北FCのトップチームは今シーズン、現時点で4つの引き分けあがありますが、その全ての引き分けが、先日の中学生と同じ形で失点した結果です。攻め続けている試合ほど、わずかな隙にやられるものなのです。
 「いいサッカー」とか「美しいサッカー」という表現があります。そのイメージの頂点にはスペイン代表があるのかもしれません。しかしウルグァイのように堅守をベースにして、ほとんどの試合でポゼッション率40%台でもW杯4位になれるサッカーもあります。それもサッカーなのです。そして、細かなことをせずカウンターとセットプレーを活かす戦い方は、とても実戦的な方法であることは間違いありません。
 日本代表や成人のチームはともかく、将来ある中学生、高校生に、何を教えていくべきか。指導者として悩むことがあります。結局、最後はカウンターとセットプレーでけりが付くことが多いのだからと、最も効果的な方法を伝授し反復させるのか、それともあくまでサッカーのいろいろなプレーを学ばせるのか。いろいろと試みる方が勝負ではリスクが高いことは確かです。