ケイン!!!イングランドの魂

 94年アメリカ大会、優秀候補の一角だったコロンビアは、アメリカにまさかの敗戦、大会から姿を消します。敗戦の原因となったオウンゴールの当事者であるエスコバル選手は帰国後、自国勝利の賭けに大敗した裏組織の人間に射殺されてしまいます。
 ロシアW杯、コロンビアはサンチェスのハンドで日本に金星を献上してしまいます。コロンビアはその後、持ち直して決勝リークに進出しましたが、94年のエスコバル事件を思い出し「もしグループステージで敗退するようなことがあったら、ハンドをしたサンチェスの命は危なかっただろうなぁ」などと思いっていました。
 しかしノックアウトステージ一回戦、サンチェスまさかのことをしでかしてしまいます。イングランドのエース・ケインにラグビータックルまがいの反則をし、またまたPKを献上してしまったのです。
 誰がどう見ても言い訳のしようがない明らかな反則。それでも当のサンチェスをはじめとしたコロンビア選手たちの執拗な抗議の激しさは度を超えていました。往生際が悪いなんてものじゃない、久々に見た醜さでした。見ていて非常に不愉快でした。しかし、「帰国したらサンチェスが殺されちゃうかもしれないんだぞ!!!」って抗議していたとすれば、あのしつこさの意味がわかるような気もします(笑)。
 さて、PKを蹴ったケイン、この試合、計9回のファウルを受けました。バシバシ蹴られてガンガン倒される。でもネイマールみたいに大げさに痛がったりしないし、そもそも「反則ちょうだいアピール」もほとんどしません。倒された後、軽く手を広げて「オイオイ、これアリなの」と相手の汚さを呆れる程度。
 イングランドセンターフォワードの矜持ですね。自分が一番、DFに激しく狙われるということを「宿命」として受け入れている。それを跳ね返してこそのストライカーだという自覚が滲み出ています、自身が倒された獲得したPKも、ギリギリ最後まで身体を張って相手の反則を跳ね返し、反則行為までねじ伏せようとするから結果、相手の行為も「どう見ても反則」という形にならざるを得ない。
 さて、PKの笛の後、コロンビアの執拗な抗議でプレーは長らく中断します。その間、ケインは数に勝るコロンビアサポータのブーイングを浴び続けます。執拗な抗議がされている間、一部コロンビア選手がケインに歩み寄り何かを言います。多分「本当はフゥウルじゃないのに蹴るのかよ」とか「蹴ったって必ず失敗するぞ」とか、心を乱すようなこと言っていたのでしょう。しかし泰然自若と受け流すケイン。
 当然ですが、執拗な抗議は認められず、ようやくPKの実行に。マークにボールを置くケインに、別のコロンビア選手が「ちゃんとマークの所にに置いていないんじゃないか」と抗議、ケイン知らん顔。すると今度はコロンビアGKがつかつかと歩み寄りケインに一言、二言。「絶対、取ってやるからな」とか「お前、左隅に蹴るつもりだろう」なんてこと言っていたのでしょうね。ああ何と醜いコロンビア、あらゆる手を使ってケインの心理的動揺を画策します。
 そしていざキック。今大会、ケインはPKではゴール向かって左隅に弾丸キックを蹴り込んでいます。一点を争うこの試合、ケインは果たしてその「得意のコースに」蹴るのでしょうか。判定が下ってから相当な時間が経過し、その間ブーイングを受け、入れかわり立ち替わりコロンビア選手の心理陽動作戦を受けてのキックです。ボールは「得意のゴール左隅」を予想したGKの裏をかいてゴール中央へグサリ。
 いやはやケインの冷静かつ不動の心理に敬服しました。反則への対応も含め、まさにイングランドの魂を具現したようなケインの振る舞い。素晴らしいです。