ザッケローニ監督

 ちょうど昨日の今頃、各電子メディアは代表監督にペケルマン氏決定と報じていましたが、夕方には一転、ザッケローニ氏就任ということで、驚きました。現在、報道履歴からもペケルマン就任の記事は見事に削除されています。誰よりも早く報道することにそれほど大きな価値があるとは思いませんが、間違いだけは困りますね。
 さて、そのザッケローニ氏の紹介ですが、先を争って報道合戦した割には、どこも金太郎飴のような内容のみ。セリエAで指導しミランで優勝経験、その後セリエのビックグラブを歴任するも、さしたる戦績なし。4-3-3のフォーメーションを採用する攻撃的サッカーを志向。う~ん。そんなことは今時、ネットで検索すればずぐに手に入るのですが---。で、彼の指導には何が期待できるのか、報道のプロには、そんな論評をしてわしいものですね、「早さ」を競うよりも。
 ザッケローニ氏の母国、イタリアのサッカーは「カテナチオ」と表現されます。ゴール前に堅く鍵をかけるような堅固な守備を形容した言葉です。その点からイタリアのサッカーは「守備的」と嫌われる傾向もあるようですが、私はイタリアサッカーには、かなり学ぶべところが多いと思っています。
 それは、堅く守ってボールを奪った後の鋭いカウンター攻撃が見事だからです。ペナルティエリアの幅くらいの範囲で、ボールがテンポよくながり、一気に相手の守備を攻め崩す。最後に勝負強いストライカーが現れて、思い切りの良いシュートでグサリとゴールに突き刺す。
 私が学ぶべきと感じているのは、そうしたカウンターに関わるパス、ランニング、ポシショニングといった「プレー」そのものだけでなく、そのカウンターを繰り出すきっかけを「今がその時だ」と察する能力、そして、それを察したら全員が一斉に攻撃のスイッチをONにして、私の友人の愉快な表現を借りるなら「海の岩場で石を動かしたらフナムシが一斉に動き出すように」、一気呵成に攻め上がる決断の早さです。
 イタリアのサッカーを見ていると、そうした「ここが攻め時」というチャンスを虎視眈々と狙い、感じ取る力が、とても鋭く研ぎ澄まされていると感じます。その感性が鋭いからこそ、「決めるべき時」にきちんと得点する決定力も高いだと思っています。
 気になるのは、ザッケローニ氏が、そうしたイタリア的傾向とは多少ベクトルが異なる指導をすると言われていることです。私は4-3-3-のフォーメーションだからすなわち攻撃的などという、短絡的な論評はしません。攻撃的であるか否かはFWの人数で決まることではなく、プレー一つひとつに対する選手の意識の問題だからです。極端な話、FWが4人いても全員で自陣に引くような戦法なら守備的なのです。
 ともあれ、私は日本が4年後に、攻撃的なサッカーを展開し、見事なバスワークでベスト16レベルの相手を次々に攻め崩してベスト8に進出できるとは到底、考えられません。ですからしばらくは、守勢に回らざるを得ない展開から、いかに効率よく得点機をつくるか、という部分を洗練させるべきと思っています。その意味で、イタリアサッカーには学ぶべきところがあると感じているのです。
 というわけで、私はザッケローニ氏からは「これがイタリアサッカーの真髄だ」というような、チャンスに畳みかけて1点を奪い切る哲学を学びたいと思うのですが、どんなものでしょう。やはり日本の皆さんは、華麗なパスワークで攻め崩すサッカーを伝授してもらうことを夢見るのでしょうか。