W杯-5

 オランダ戦、スコアこそ予想と1点違う0-1でしたが、残念ながら試合結果は予想通りの敗戦となってしまいました。それでも、守備意識を統一した戦い方は見事だったと思います。相手はどうあれ自分たちのサッカーを貫く、という姿勢は確かに潔い印象を与えるけれども、考え方によっては敗戦したときの逃げ道を確保する思想ともいえます。あらゆる手を尽くして勝利の可能性をたぐり寄せる勝負の世界では、あまり現実的ではない考え方かもしれない。今回の岡田采配は、彼我の力量差を冷静に受け止め、極めて現実的な戦い方をしたという意味で、勝負師の魂を見た気がします。

 日本は前半、狙い通りの展開ができました。選手の間にもベンチにも「いけるぞ」という手応えが広がりました。「こんな感じで後半も行こう」という意識があった。だから後半、日本のキックオフだったにもかかわらず、意識はどちらかというと守備から始める「後ろ向き」なものでした。一方、前半を無得点に抑えられて、じれていたオランダは、キックオフ直後から気合いをいれてきた。開始直後にタテパスを受けた日本の選手が、そのオランダの激しいプレスにあわててバックパスをしますが、パスを返された選手もあわててミスし、あっという間にボールはオランダに渡ります。この「後半の入り方のまずさ」が失点の伏線です。以後、日本は自陣に押し込まれたまま、一度もペースをつかめないまま8分に失点を喫します。

 敗戦の第一の原因は、この後半の入り方です。それでも、優勝候補オランダ相手に1失点は許容範囲でした。敗戦の第二の原因は、耳にタコができるくらい聞かされてきた「決定力不足」です。大久保選手には、左から中央に切れ込んで2回シュートチャンスがありましたが、いずれも得点の可能性を感じさせることのない弾道で終わっています。W杯前に韓国戦であった前半最初のビックチャンスと同じシーンです。残念ながら彼はもう、この形では決められないと思っていでしょう。プロの技術力を感じません。

 岡崎選手も決定的な左足ポレーを外しました。その一瞬のために交代で送り込まれたというのに---。彼はカメルーン戦でも左足で同じような角度からポストを叩くシュートを打っていたはずです。千載一遇のチャンスに同じキックしかできないようではストライカーとは言えません。W杯前のイングランド戦でも相手センターバックファーディナンドのミスでゴール正面からボレーシュートする絶好機がありましたが、バーの上に蹴り上げていました。修正すべき点を修正できていないのです。3度も4度もチャンスを与えられなければゴール枠にシュートを飛ばせないようではW杯では勝負できません。

 右サドバックの駒野選手から珍しく(笑)、GKとDFの間に鋭い弾道のグラウンダーのクロスが入った場面がありました。触れば一点という場面です。しかし、頼りの本田選手はDFの前に入り込むことができず、他の誰も絶好のスペースに走り込んではいませんでした。ボールはむなしくオランンダゴール前を通り抜けていきました。

 大久保選手の2度のシュートチャンス、岡崎選手の至近距離のボレー、駒野選手の絶妙のクロス。このうちのどれかを活かしていればいいいのです。スペインを破ったスイスなど、チャンスの数は日本よりも少なかったですが、そのチャンスに怒濤のような攻め上がりをして1点をもぎ取っています。フランスを破ったメキシコしかり、スロベニアに追いついたアメリカしかり---。日本は今回、勝負に徹するという意味で、総論的にはよくそのコンセブトを遵守し、オランダを苦しめました。ただ、各論として、劣勢の中から勝利をたぐり寄せる緻密な勝負強さが、特にシューターとなる選手に足りなかった。
みんな平均点以上でそこそこ優秀でも突出した存在が生まれない。日本社会の縮図を見た気がしました。