日本敗退

 残念でした!!!0-0のまま延長でも決着が付かずPK戦へ、という予想は大当たりでした。予想では「後はサッカーの神様に委ねて」と書いていました。なぜ、あの時、PKの勝ち負けを予想しなかったかというと、実はいやな予感がしていたからです。神様は「君たちの力ではベスト8はまだ早い」と啓示したわけですね。厳しいことを言いますが、他のベスト8のチームの力を見た場合、残念ながら日本はそれに相応しい力があったとは思えませんでした。

 あと一歩、届かなかった原因は何でしょう。簡単です。決める時に決められない、大事な場面に対する甘さ、適当さです。この点については、W杯前の強化試合に触れたときにも強調しておきました。負けた試合で、手も足も出なかったということはない。確かにチャンスは少なかったけれども、1回か2回だけということでもない。確実に決めるべきチャンスがあるのに、それを無駄遣いしている。そこが問題だと。結局、今回もそのチャンスの無駄遣いに泣いたのだと思います。

 開始早々、大久保選手がシュートチャンスをつかみました。相手の「入り方の悪さ」につけ込む絶好のチャンスです。しかし、決して難しい体勢からではないシュートは左にそれました。あのシュートに対して、皆さんはどのような感想を持ちましたか? 「いいぞ、そうやって最初からガツンとやる気を見せてやれ」とか「始まってすぐだから、まずはあの程度でよし」とか、「そんな感じでこの先も頼むぞ」とか、そのような心境だったのではないですか?私に言わせれば、まさにそこが原因なのです。大事な場面は「後で、いつか」くる。たけど、今はその時ではない、という心理。たった1回のことだから、さほど大きなことではないでしょう、という心理。それが問題なのです。

 勝負を決めるために投入された玉田選手が、岡崎選手と絡んだプレーで左サイドのゴールエリア付近まで深く侵入しました。玉田選手が次に選択したのは、誰も走り込んでいない中央へのパスでした。確かにシュートの角度はわずかでした。しかし、ボールは玉田選手が得意な左足の前に転がっていました。堅守・北朝鮮ゴールに突き刺したブラジルのサイドバックマイコンの先制シュートを思い出して下さい、アメリカに起死回生の勢いを与えたドノバンのシュートを思い出して下さい。いずれも角度のないところからの一発です。あのような一世一代の決断が勝負の流れを引き寄せるものなのです。ましてや、玉田選手の役割は、お膳立てではなかったはずです。

 PK戦。PK職人の遠藤選手、ハートの強い長谷部選手と本田選手、ここまでのオーダーは誰でも納得でしょう。プレッシャーがかかる5人目を誰に蹴らせる予定だったかは現時点では情報が入っていませんが、私はハートの強い闘莉王選手ではなかったかと想像しています。予想が当たっていれば、これも納得です。しかしなぜ3人目が駒野選手だったのか?チーム内の事情は外野にはわかりませんし、PK練習を見たわけでもありません。それでも、キックの正確な中村憲剛選手、あるいは、左キッカーの玉田選手という選択はできなかったのか、と思います。二人とも交代出場で脚の疲労も少なかったわけですから。

 駒野選手のPKはキックの精度を欠きました。想像を絶するプレッシャーの中のキックです。過去、ジーコも、プラティニも、バッジォも、ストイコビッチも、中田英寿も外しています。ですからPKを外した責任を追究するようなことはしません。しかし、駒野選手のクロスの精度の悪さについては、私はしばしば触れていました。このコラムでも以前、駒野選手から鋭いグラウンダーのクロスが入ったことに対して「珍しく(笑)」と書いています。精度の悪さは何年も改善されず、それはパラグァイ戦でも変わりませんでした。そのキックの精度に対する姿勢の集大成が、あのPKに現れたのだと思っています。

 駒野選手に限らず、日本選手はシュート、クロス、バスに対して、「これくらいでいいだろう」という妥協点が低すぎるのではないでしょうか。そういう低い妥協点で止まってしまう姿勢は、流れているプレーの中では「たくさんのミスの中の一つ」としてぼやけてしまいます。しかしそれは、あのような一世一代の場面で、誰も助けてくれない、たった一人、本当に素の自分になって試される場面で、正直に現れます。

 相手ボールを奪い、いざカウンターを繰り出せ、という場面で、思い切ってタテパスで走って勝負せず、スピードダウンして、きょろきょろと安全なパスをつなげる味方を探している、という場面が何度もありました。あわてて勝負を仕掛けてカットされ、カウンター返しを受けてはいけない、という心理の現れでしょうか。しかし、そうして、ぐすぐずと迷っているうちに、再び相手のプレスの餌食になり、逆にピンチを招く、という場面がかなりありました。これも、ずっと引きずっていた悪しき傾向です。「もしもの事を考える」という慎重さが、かえって相手につけいる弱みを晒すことになる。これも勝負を引き寄せる心理としては「逃げ」に属します。

 岡田監督の分析と英断で、日本は「守備から入る」という方法をとり、ベスト16に進出しました。柔軟な対応力とチームワークという日本人の気質面の長所は最大に生かされました。一方で、ベスト16以上に進むには、それに加えて、より確かな技術と、チャンスを活かし切る強い心理が必要ということが明らかになりました。