何のために----

 チャンビオンズリーグ準決勝インテルvsバルサは3-1と意外な大差でインテルが勝利しました。この試合で私が注目したのは、サイドからのクロスです。バルサの先制点を皮切りに、インテル追撃の1点目、勝ち越しの2点目、突き放した3点目とも、サイドからの長短のクロスが実った攻撃でした。
 強調したいのは、それらのクロスの精度です。クロスのキッカーが、中央に走り込む選手の体勢、タイミングをきちんと見計らって、ピタリと合うキックをしている。ある時は、いわゆる「マイナス」に深くえぐるように、ある時は平行に走る味方の足元に達するように、そしてある時は、いわゆるアーリークロスでGKとDFの間に---。TPOに応じた蹴り分けが実に見事でした。
 私がJリーグや日本代表の試合を観ていて失望することの一つが、このクロスのキックです。代表の人気イケメン選手でさえ、サイドからのクロスを平気でゴール裏にミスキックしてチャンスつぶす。ゴール裏に飛んで行かずとも、中央の選手にピタリと合わせるシーンになかなかお目にかかれない。もちろん、欧州と日本のレベルの違いは歴然ですから、何も全てのプレーをインテルバルサのように、とは言いません。しかしそれにしても、日本人選手のクロスに対する意識はいい加減すぎる。
 こうした日本人選手を見ていると、何やら、サイドにボールがわたった時点で満足しているように見えてしまいます。サイドから攻めようというチームの目的のもと、狙い通りサイドにボールが回った時点で「できた」と思ってしまう。そういう本末転倒の意識を感じてしまいます。たから本当はもっと大切なクロスを失敗しても「サイドを取れたからまぁいいいや」と納得しているのではないでしょうか。
 思えば日本には、信じられないくらいたくさん勉強して受験で中学、高校、大学に入学したとたんに勉強の意欲がなくなるという少年が腐るほどいます。「入ること」それ自体が目的という意識しかないからですね。そんな環境が当たり前に思われている日本で育った選手ですから、本当はすごく大切なクロスのキックが適当になってしまうのかもしれません。
 何事に対しても「本質は何か」という点を見失しなわないことは大切ですね。私もコーチングしているようでしていないこと、解説をしているようでしていないこと、がないように気をつけなければ。