サンダーランドとファウルの新基準

 14日のプレミアリーグ解説で担当したのはサンダーランドvsマンチェスターシティでした。サンダーラントが位置するノースイースト(英北東部)のチームが受け継ぐプレースタイルは、寒冷な気候と同地域の人々の実直な気質が反映されてか、非常に激しくタフであることで知られています。一方マンチェスターシティは、長年、同じ地域のライバルであるマンチェスターユナイテッドの後塵を拝していましたが、アラブの大富豪をオーナーに迎えて大型補強を実施、チャンピオンズリーグ出場権を得るリーグ4位以内の確保を狙っています。
 試合はサンダーランドがボール際の激しいプレーでシティを圧倒し、終始イニシアチブを握る展開でした。1-0とサンダーランドのリードで試合はアディショナルタイム(日本で言うロスタイム)に入りましたが、最後の最後、土壇場でシティがコーナーキックからこぼれたボールを蹴りこみ1-1で試合終了。個々の選手の能力は圧倒的にシティが上でしたが、ボールを奪おうとする気力、小細工をせずにゴールに向かおうとする迫力、つまりノースイーストの伝統が、それに十二分に対抗していました。
 さて、日本のサッカー界では今年からボールの奪い合いに際して「手、腕の使い方」に厳しいジャッジを下すとのこと。ボールを奪われまいとして手を広げてブロックしたり、腕で押し返したりする行為、あるいは、奪い合いの中でシャツをつかんだりする行為を、即座にファウルと判定するととのことです。先日も我がチームが所属する神奈川県リーグの会議で、審判委員の方から同様の指導を受けました。もちろん、そうした行為は以前から歴然としたファウルであることには変わりありません。しかし、これまではプレーに影響がない範囲であれば敢えて厳しくファウルとしない場合もあったようです。それを、今後は、問答無用でファウルと断定するとのことでした。
 その判定基準導入の背景として、日本の各年代の代表選手たちの守備力の問題が挙げられていました。つまり、前記のように国内では手や腕を巧みに利用してボールを奪ったり競り合いに勝ったりすることが、ある程度、認められてきました。しかし、それを国際試合で実施するとファウルになってしまうため、手や腕の使用を厳しく制限する国際基準でプレーすると、今度は真の守備力では劣ってしまうのだそうです。そこで、手や腕を使わない「正当な」守備力を醸成するために、手や腕の使用を厳しく制限する基準で臨むことが必要と判断されたということでした。
 私はこの説明を聞き、それが日本サッカー界の最も重要勝つ深刻な問題である決定力、突破力の養成を阻害することになると確信しました。競り合いから強引な突破をしかけた選手に少しでもDFの手がかかれば即座にファウルの笛が吹かれる。そういう判定が繰り返されれば、やがて、わずかな手、腕の接触で「ファウルだ」とアピールして突破する行為を止めてしまうFWが増えることでしょう。引っ張られようが押されようが、DFを引きずるようにしてゴールに迫った、そう、あの釜本邦茂さんのようなFWは、ますます育たなくなります。
 DFが手を使って止めようとすることは、私は審判の判定基準の問題ではなく、指導者の資質の問題だと思います。そういう止め方が一つのDF技術であるという思い違いをし、それを伝授していた指導者の頭の中こそ、大きな問題があるのです。