W杯-9

 メッシ、メッシ、メッシですね。

 他の一流選手の一試合の移動距離が軒並み1万~13000mのレベルなのに、彼のそれは、わずか7000m程度なのだとか。それでも、ひとたびボールが来れば、奪われないどころか、大抵はチームになにがしかの効果をもたらすプレーをするのですから、ボールが来ない時は走らないでブラプラしているだけでいいよ...となってしまいますよね(笑)。

 3点目のアシストは圧巻でした。

 クロアチアのCBグバルディオル、今大会注目されたDFの一人で、日本戦を筆頭に対戦相手のFWをことごとくストップし、一対一で打ち破るのが最も困難という逸材。大会終了後は、ビッグクラブから巨額のオファーが舞い込むこと必至とされています。小柄なメッシと並べばまるで大人と子ども。パワーではヘビー級とバンタム級くらいの差があるのではと思わせます。

 メッシ、そのグバルディオルを翻弄しました。まず体の使い方。グバルディオルがパワーに任せて奪いに来ても、メッシは素早く体の向きを変えてボールをグバルディオルの足の届かない場所に移し、自分の体でボールを守る体勢をつくります。その間、動きに鋭い緩急をつけ、動いたり止まったりしてタックルの狙いを定めさせません。緩急だけでなく、動くコースもあっちへ行ったりこっちに来たり。こうなるともう鬼ごっこですね。全然つかまらない。

 そして、ここぞというタイミングを逃さず、鋭くゴールライン方向に切れ込みます。しかし、そのままでは右足のキックになります。メッシが左足しか使わないことは世界中の人々が知っています。必死に追いかけたグバルディオルの脳裏には「左足に持ち替えるために、最後の瞬間にもうひと技があるかもしれない」という考えがよぎったかもしれません。なので思い切って体を投げ出すタックルができません。

 次の瞬間、なんとメッシは右足で見事なクロスを中央に返します。それを幼い頃からメッシに憧れてプレーしていたアルバレスが難なく決めました。いざというときにはちゃんと使えるんですね、右足。

 体でボールを守りながら緩急とコースの変化を加えて相手を翻弄したメッシのドリブルは、そのまま子どもたちの「最良の手本」です。私たち指導者は「あの時のメッシのように」と言うだけでいい(笑)。そして次のクロスのシーンを取り上げて「メッシだって右で蹴ったでしょ」といえばいい(笑)。得意ではない方の足でもきちんと蹴れるようにしようという指導でそのまま使えます。

 アルバレスいいですね。個人の突破で力強く推進して奪い取った2点目は素晴らしい。オーストラリア戦、ホーランド戦の得点でも、ゴールに向かう迫力だけでなく繊細で正確なタッチも披露しています。昔から何度も言ってきているのですが、アルゼンチンは絶え間なくあのように逞しいストライカーを排出し続けます。なぜなのでしょう? 

 メッシ、アルバレスの師弟コンビがフランスの堅守を打ち崩せるのでしょうか?楽しみです。

 モロッコ大健闘でした。

 負傷者が出てベストが組めなかった不運もありましたがフランスとがっぷり組んで攻め合った内容は見事だと思います。

 この試合を象徴するシーンがありました。エムバペが超人的なスピードで左サイドを突破しタックルに入ったモロッコDFが置き去りにされたシーン。後方から、必死に、懸命に、スプリントして追いかけたアムラバトが、まさにクロスを入れられるというその瞬間に、それこそ「飛びかかる」ようなタックルをしかけてストップ、ボールを奪い返すとすぐに起き上がって反撃に転じた場面です。

 何というスプリント力、何というパワー、何という精神力。アムラバトには、ただただ拍手するしかないですね。素晴らしい。このアムラバトのプレーが象徴する、優れた能力の選手がチームプレーに献身する姿がモロッコ躍進の根底にあると思います。

 ただ、エムバペ...。どうしようもないですね、あれは...。

 2点目に彼の非凡さが集約されています。まずペナルティ外でプレスを受けながらターンする場面。ワンタッチでいとも簡単にマークの逆を取り、前を向いて左への丁寧なパスを送ります。このエリアであのターンができることがすごい。繊細なボールタッチも見事ですが、素早くナチュラルな姿勢で体勢を変えられる能力もすごい。このターンだけを何度も見たい気持ちになります。

 そして、その直後、リターンされたボールを受けてゴール前に食い込んでいくプレー。ここでもファーストタッチが見事。ちょっとした体の動きとステップの変化でトラップの瞬間を狙ってきたタックルをいとも簡単に外し、次のステップでは右・左と連続してボールに触れるいわゆる「ダブルタッチ」でカバーに入ったDFをかわす。体格に優れた一流選手が密集して守るスペースをそれこそスイスイという感じですり抜けていく。

 本人のシュートは弾かれ、それを交代出場したばかりのコロムア二が決めますが、99%はエムバペの得点です。超人的なスピードを持つ選手があれ程の繊細さも掛け持つ...対戦相手は本当にキツイですね。

 メッシ・アルバレス対エムバペ・ジルー。日本人からするともうゴジラキングギドラですよね(笑)。次元が違う戦いです。それらを迎え撃つそれぞれの「防衛軍」の強さも含めて、映画でも観るような気持ちで観戦しまししょう。