「進級」に思うこと

 毎年、この時期になるとサッカークラブ来期4月からの中学生のチーム編成に関して頭を痛めます。まず小学生の部からの進級メンバーを募りますが、子どもの意思に反して親御さんが昇格を認めないケースが出てきます。

 ナイター練習になるので勉強ができなくなる、というのが一番多い理由です。確かに学校から帰宅して、19:00~21:00の練習に参加すれば、練習日にはほとんど自宅学習の時間はありません。一方、学校のサッカー部は18:00完全下校ですから19:00前には帰宅できます。とはいえ、夕食を済ませて、就寝までの間、毎日、本当にしっかり自宅学習をするのでしょうか? また、部活動にでは「朝練」などもあると聞きます。早朝に登校するために早く就寝したり、また、寝不足になって夕食後は眠くて学習どころではない、という状況にはならないのでしょうか?

 ナイター練習で時間が制限される分、練習日ではないときにしっかり学習をしなさい、と私のクラブでは指導しています。時間は「使い方」でどうにでもなるものだと。ある時、偏差値の高い有名大学に通っているトップチームの選手が試験期間でもナイター練習に休まず参加しました。「大丈夫なのか?」と問う私に彼曰く「毎日、練習があるわけではないし、練習日でも練習時間は24時間のうちのたった2時間。工夫次第でいくらでも勉強はできます」。その一方で、あまり偏差値の高くない大学に通ってる選手は「試験なので休みます」と申告してきました。

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 「ナイターでは勉強ができないので」と学校のサッカー部を選んだ子が、クラブでプレーすることを選択し3年間ナイターで活動を続けた子どもと、結局、同じ高校に進学したという皮肉な話がいくらでもあります。大学進学時では、クラブ所属を継続した子の方が高い偏差値の学校に進んだという例もいくつもあります。

 「お金がかかる」というのも、クラブチームでプレーを続けることへの忌避感に繋がっています。学校のサッカー部ではわずかな「部費」ですむ一方で、クラブチームは相応の会費がかかります。しかし、例えばユニフォーム類はサッカーをプレーする以上、どこに所属しても揃えねばなりませんし、合宿や遠征に費用がかかることも同じです。差は会費。「会費を払ってまで」選ぶ価値があるか否か、ということになります。

 学校のサッカー部では希望者全員が入部し50名超ということも珍しくないとか。顧問の先生は多忙で決して毎日指導に顔を出せる状況ではなく、大会にも学校単位で出場するために3年生中心のチーム編成になり、よほどの力量が無いと1年生から試合に出ることはできません。クラブが会費を頂いているのは、チームの所属人数を指導の効果が行き渡る人数に制限し、担当コーチを配属して選手全員の成長をきめ細かに見ていく環境を整備し、各学年ごとに試合経験をしっかり積んでいける体制を確保するためです。

 こうした「差」を理解していただいているのか、気になります。私たちが6年間、提供してきた環境が決してサッカー界共通の「当たり前」のことではなく、別の環境に行っても同じように用意されているわけではない、ということに気がついていただいているのか、気になります。特に子ども自身、我々がずっと彼らを見守ってきたように、別の環境に移っても新しい指導者に同じように気にかけてももらえる保障はないのだということに、気がついてくれているのか心配です。

 最後に、まだ来春は遠い遠い先なのに、もう今から進級のことをあれこれしなくてはならない状況にため息が出ます。一人でも優秀な素材を確保しようと、子どもの「青田買い」が年々、早まって、もう7月のうちに選考会を行うチームがでているのです。6年生になって、たった2~3ヶ月で中学のことを決めるなんてクレイジーですよね。そこまでしてチームの勝敗にこだわる。どう考えても異常です。