ポーツマスと試合の進め方

 4月11日に解説担当した試合はFAカップ準決勝トッテナムホットスパー(スパーズ)vsポーツマスでした。今シーズン好調で現在5位につけ、チャンビオンズリーグ出場権獲得の4位以内を狙っているスパーズと、不調のどん底、かつ経営破綻のペナルティとして勝ち点9を剥奪されリーグから降格が決定したボーツマスの対戦。一発勝負の意外性はあるとはいえ、力量から考えればスパーズに分があるはずの試合でした。
 試合展開はその力量差を正直に示してしました。ボールポゼッションの多くを支配し、主導権を握って多くの攻撃を仕掛けたのはスパーズです。方やポーツマスは、全選手が献身的な守備をして食い下がり、時折おとずれるカウンターのチャンスに一気呵成に攻め上がることが唯一の勝利への糸口でした。
 攻撃を繰り返しながら得点が決められずに、じれるスパーズ。こうした展開で、古今東西を問わずありがちな結末が、守勢にまわった側が数少ないカウンターのチャンすを活かして得点し、逃げ切るというもの。果たしてこの試合もその通りになってしまいました。延長に持ち込まれた試合は2-0でポーツマスの勝利。もしこの次、決勝でポーツマスチェルシーを破るようなことがあれば、まるでチーム消滅直前の横浜フリューゲルス天皇杯で優勝したときのような筋書きになってしまいます。
 ともあれ、この「よくありがちな」試合展開を実現させたのは、ポーツマスの選手たちの優れた戦術眼に他なりません。まず、じっくりと守る。一度ボールを奪ったら、早めに前線の選手に預ける。ボールを受けた選手は焦らずボールを奪われないようにしっかりキーブして、味方の上がりを待ち、できるだけ走って勢いのある仲間の前方にバスを送り、フォローで上がってくる味方の流れを止めないで一気にシュートまで行く形を大事にする。このバターンをしっかりと遂行できたからこそ、リーグ降格のチームが5位のチームに一泡吹かせることができたのです。
 実は、この解説をする前日の10日、私が指導するチームは、この日のスパーズと同じ過ちを犯していました。開始1分でやすやすと先制、その後も終始、試合を支配して28分に追加点。最終ラインをハーフウェイライン付近に設定できるほど、相手を自陣内にがっちりと押し込め、まったく危なげない試合展開が続きました。しかし、後半30分と44分にこちらのミスからワンチャンスを活かされて失点、2-2で試合を終えたのでした。
 終始耐えてチャンスを狙っていた相手チームも見事でしたが、それを簡単に許す我がチームも情けない---。試合を支配し、多くのチャンスをつくる中で「いつか入るだろう」という安易な考えを抱くことが足元を救われる元凶ということは今更、言うまでもないことなにのに----。
 我がチームの歯車が狂いだしたのは、交代選手を投入してからです。多少のコンビネーションの不具合は予想できていたのですが、少なくとも残り15分をしのぐくらいの応用力は選手にあるはずだと踏んだ私の判断ミスでした。岡田監督が惨敗のセルビア戦の後「主力がいなくてもある程度まではできると思っていたが、これほどできないとは---」と嘆いていました。レベルは違えども、岡田監督の失望はよく理解できます。「それくらいの狂いも修正できないのか」「そこまで手取り足取り教えなければダメなのか」という失望感。
 ポーツマスにとっては、給料の未払いなどチームが絶望的な状況にある中での格上相手との対戦。しかも舞台は8万人が詰めかけた憧れのウエンブリースタジアム。負けたら終わり。そんな状況でTPOに応じた適切なプレーがたきた選手たちに敬意を表すると同時に、そうしたゲームの進め方ができる判断力、サッカー頭脳をどのようにしたら醸成できるのか、未熟な指導者の一人として悩むところです。