1億562万2860人の意思

 その昔、日本がまだ韓国に負け続けていた頃、日韓戦の前日会見で明日の結果の予想を記者に聞かれた韓国の監督が、3-1、2-1などと言っていました。「1点は取られるのですか?」と聞かれると「釜本がいるから1点はしょうがない」と答えました。日本に対して絶対的な自信があっても、釜本にはどうやっても点を取られてしまうと言わせるほど、釜本さんの決定力はズバ抜けていたのです。

 世界を見渡せば、ペレ、マラドーナミュラー、クライフ、プラティニバッジオジダン、メッシなど、それぞれの時代に「どうしても止められない」という別格の選手が存在します。そして私たちは、その「どうにも手がつけられない」神業を堪能する一方で、その選手を見事に完封した末の快挙も楽しませてもらいます。

 ずば抜けた一人の存在があることはサッカーの楽しみ方を豊かにしますが、政治ではそうはいきません。独裁政治は最も忌むべき統治法の一つですし、民主主義体制下にあっても、特定の人物、グループ、政党が長く権力を牛耳ることで人々がとても幸せになったというケースは見あたりません。

 さて、やってくる参院選。日本の有権者は10月19日現在で1億562万2860人いるのだそうです。民主主義の基本として、とりあえず過半数以上の「賛成」「同意」があれば支持されているとするなら、為政者は本来、約5280万票以上の票が必要ということになります。

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 ところが、令和2年に行われた参院選投票率は48/8 %。実際に投票した人の数は約5154万4000人で、投票者の全員一致(あり得ないですが)があったとしても、有権者過半数に達しない数でした。

 実際に投票された約5154万4000票の行方を見てみましょう。今のところ、最も支持率の高いのは自民党ということになっていて、その支持率は約40%。ということは、自民党支持者の100%が投票所に行き、その全員が自民党候補者に投票したとしても、実際の投票で集まった自民党支持の票は約2000万票という計算になります。

 本来なら5280万票以上ないと「過半数の支持」とは言えない状況で、現実にはその半数にも満たない最大2000万票ほどの得票を得た政党が第一党となり、権力を行使しているわけです。もちろん、これは全て正当な手付きを経た結果ですので、私たちはその結果を受け入れ、行政に従うことは当然です。

 それでも、1億562万2860人の有権者が存在する中で、たった2000万人の意思が日本を動かしていると思うと、いかがなものか、という気持ちになる人もいるでしょう。ピッチ上のペレやマラドーナと違い、特定の存在に決定的な仕事をされては困るのが政治です。政治ではしっかりチームでポゼッションしながらパスを回すサッカーをしなければなりません。

 ポゼッションサッカーを実践するには、まずそのパスワークの中に参加しなければなりません。投票所に行き、意思表示をしなければなりません。プレーに参加せずに勝利の喜びを得ることができないように、投票せずに平和で暮らしやすい穏やかな日々を求めることはできません。

 どのような政策を掲げる人々に委ねられるにしても、約2000万人で1億562万2860人の意思をコントロールする、つまり有権者の約8分の1の人々によって国が動かされているという状態は、あまり誇れるものではないと思います。まずは投票して意思を示しましょう。