誤審

 決勝トーナメント1回戦、イングランドはドイツに完敗しました。エジルのテクニックとミュラーの得点感覚を最大に引き出したドイツの洗練された組織力は見事でした。それに引き替え、イングランドの選手のコンディションの悪さは目を覆うばかりでした。日本との親善試合では本来の力の30%くらいと評しましたが、結局それは50%以上には上がらず、いいところなくW杯を去ることになりました。

 特に、前線でボールを受けることができず、ろくにシュートもできなかったルーニー、当てずっぽうのクロスしか入れられなかったミルナー、あらゆるプレーに精彩を欠き最後はエジルに惨めに振りちぎられたバリーの出来は目を覆うばかりでした。センターバックコンビのテリー、アプソンも大事な局面で集中を欠きすぎました。その他にも全体にコントロールミス、キックミスが多く、判断の遅さ、テンポの悪さなども目立ちました。40年来のイングランドファンの私も、さすがに今回の動きの悪さには失望しました。

 1点目はアブソンとテリーの不注意から奪われました。まるで今、行われている小学生の区大会の失点のようでがっかり。2点目はドイツのモビリティーにたやすくマークを外されました。センターから左サイドに引き出されたアプソンの緩慢なアプローチが直接の原因です。3点目、4点目は信じられないくらいあっけなく相手ゴール前でボールを奪われてカウンターを受けました。頼みの綱のジェラードまでもが腰砕けになってボールを奪われていた場面もあって、「何か悪い食べ物でも食べたのか」と思わせるほど、イングランド選手の動きは悪かったと思います。

 とはいえ、イングランドが1-2から2-2に追いついたはずのランパートのシュートが認められなかったことは大変、大きな問題です。きわどい、とか、見にくい、とか、そういうレベルではなく、審判より遠くにいた人でさえゴールインとわかる明らかなゴール。結果は4-1でしたが、あれで2-2になっていればゲームの進め方もまったく違ったものになる、というイングランド側の言い分もあるでしょう。まぁ、あの日のコンディションを考えれば、たとえ2-2になってもイングランドに勝機が巡ってきたかどうかは疑問が残りますが---。いずれにせよ、一国の代表チームの4年に一度の勝負の行方に重大な影響を与えた誤審をした審判には、何らかの処分が必要でしょう。

 誤審と言えば、アルセンチンに1-3で敗退したメキシコも誤審に泣かされました。立ち上がりはメキシコのペース。スピードのあるパスワークから鋭くタテに抜ける攻撃で二度、三度とアルゼンチンゴールを脅かし、クロスバーを叩くシュートも放っていたメキシコでしたから、メッシからテベスに渡ったあきらかにオフサイトのパスからのゴールが認められたことには断じて納得できなかったでしょう。

 心を乱したメキシコは短時間のうちに追加点を奪われてしまいます。その後、メキシコが1点を返しますが、最後はテベスが「超」を三つくらいつけたくなる強烈な、まさに目にもとまらぬ弾丸ミドルシュートを決めて3-1という得点差でアルゼンチンの文句なしの勝利になりました。しかし、イングランドと同様、メキシコに言わせれば、あの1点が入っていなければ次の展開はわからなかった、ということになるでしょう。イングランド、メキシコ、二の国が明らかな誤審によって後味の悪い敗退をしたことは残念です。