W杯

 開幕戦、南アフリカは序盤の劣勢の時間帯をよく耐えて失点しなかったことがメキシコと1-1の引き分けにつながりました。ウルグァイも相手が優位な時間帯に耐え切ったことが強豪フランスと0-0で引き分けた要因だったと思います。90分の中にある自分の時間と相手の時間。その潮流に合わせた闘いができるチームが結果を引き寄せます。それができなかったのがナイジェリア。キックオフ直後から繰り返されたアルゼンチンの猛攻に浮き足立ったまま失点、それが最後まで響いて0-1の敗戦となりました。

 韓国の堂々とした戦い方には感心しました。ギリシャを相手に、いったいどちらがヨーロッパのチーム?と言いたくなるような、成熟度の高い試合運びを見せました。パク・チソン選手などは、マンチェスター・ユナイテッドで欧州チャンピオンズリーグなどビックゲームをいくつも経験している自信からか、完全に相手の力を読み切っているかのような余裕さえ伺えました。決勝トーナメント進出のためにはアルゼンチンかナイジェリアのどちらかに競り勝たねばなりません。いずれも強敵です。ぜひ頑張ってほしいものです。

 イングランドはGKのミスで勝利を逃しました。GKのミスを呼ぶ同点シュートを打ったアメリカのデンプシーはブレミアリーグ・フルアムの選手、ルーニーらの再三の好機を好セーブで防いだGKハワードは同じくエパートンの選手、いずれもイングランドの主力とは年中リーグ戦で顔を合わせて手の内を熟知している間柄です。それにしても、アメリカはさすが合理主義とスポーツ科学の国。イングランドの分析と研究は十分になされていました。

 アメリカの右サイドからの攻めに手を焼いたイングランドですが、カペロ監督は迷うことなく、防戦一方になっていた左MFミルナーに代えて俊足のS・W・フィリップスを投入、サイドを巡る攻防の形勢を一気に逆転しました。カペロ監督の決断力には脱帽しますが、それを可能にしたのはS・ジェラード、F・ランパードの存在でしょう。この二人で組むセントラルMF(日本で言うボランチ)は、攻守両面で非常に質が高い。

 4人で構成されたMFの右にはレノンが置かれていました。レノンは俊足ウインガーで、ゲームをつくるタイプではありません。そこに、さらに俊足ウインガータイプのS・W・フィリッブスが左MFとして投入されると、左右の攻撃的MFが二人ともサイドに開いてタテに走るタイプになってしまうため、中央に位置するジェラード、ランパードがカバーする領域が広がり、大きな負担になります。しかし、二人はその負担の大きさをまったく感じさせることなく、攻守両面でダイナミックに活躍しました。改めてこの二人の凄みを感じました。

 セルビアは旧ユーゴ時代から変わらない弱点があるな、という感想を持ちました。旧ユーゴは東欧のブラジルと称されるテクニックがあり、見事なパスワークが持ち味でした。しかし、ここぞという場面で勝負弱さを露呈してきました。リードを守りきれずに逆転負けするとか、終了間際に同点に持ち込まれて延長で負けるとか、PK戦で負けるとか、退場者を出して自ら崩壊するとか---。今回のガーナ戦でも退場者を出し、不必要なハンドでPKを与えて敗れました。

 アジアで日本を苦しめたオーストラリアはドイツに歯が立ちませんでした。日本を困らせるオーストラリアの体格、体力、そして強さ、激しさは、それを跳ね返せるドイツには通用しませんでした。体格、体力で優位に立てなければ、技術、戦術で勝る方の勝ちです。強さに裏付けられた、ドイツの基本に忠実かつシンプルな動きと連携は見事でした。

 さて、今夜はいよいよ日本vsカメルーンです。6月7日に書いた私の予想通りになることを祈りましょう。