ベストメンバーという考え方

 5月11日、W杯に向けた日本代表23名が発表されました。岡田監督はかねがね、メンバーは必ずしも優秀な順に11人を並べるわけではない、と公言しています。まずチームづくりのコンセブトがあり、そのチームとしての機能を考えて適材適所に人材を当てはめていくということです。今回の23人も、W杯仕様のコンセブトに対して、各ポジションの専門家、バックアップ、二つのポジションに流用できる選手、という観点で選択されたのでしょう。
 石川選手、前田選手の落選を疑問に思うファンも多いと思います。このあたりは岡田監督も随分と悩んだでしょう。2人とも力量から言えば、文句なく代表クラスです。ただ石川選手の場合、攻撃的MFのポジションとして考えた場合、FW選出組からのコンバートもあり得ると想定すると、中村俊輔中村憲剛、本田啓祐、松井大輔の他にもう一人の席は用意できなかったのでしょう。
 前田選手も同様、俊足、小回り、機動力を活かすという攻撃のコンセブトを考えると、ポストプレーヤー的な起用が生きる人材は複数必要ありません。矢野選手とどちらを選ぶか、とても迷ったことと思います。多分、前田選手にしても、矢野選手にしても、スタメンではなく、劣勢の挽回などどうしても1点をもぎ取りたいときなどに起用される構想だと思います。そうした想定の中では、矢野選手の方が適任と考えたのでしょう。
 98年当時、同様の考え方から岡田監督は最終合宿でカズ、北澤を外しました。その翌日から、自宅には脅迫電話が鳴りやまず、ハサミやカミソリを入れた手紙が届き、子どもは学校でいじめられ、自宅周辺はパトカーが警備に常駐したと、岡田監督が打ち明けてくれたことがありました。前日まで自分を評価してくれていた知り合いが、メディアで「何を考えているのか」と批判する側につき、激励の声もかけてくれなくなったと言います。「最後はたった一人ぼっちで、味方は女房だけになった」と言っていました。
 2002年W杯の時、トルシエ監督は中村俊輔を外したことに対する反響を恐れて、選手発表の場に姿を現さず、発表はサッカー協会スタッフが行いました。トルシエの逃げ腰に比べれば、批判も何も一身に背負う覚悟で逃げ隠れしない岡田監督は立派です。「いろいろ批判はいただくが、批判する人は誰一人として発言したことに責任を負ってくれない。批判する人は批判したらチームのことを忘れてしまうかもしれないが、私は24時間チームのことを考えている。世界で一番、日本代表のことを考えている。責任も負う」という覚悟を持っているのです。
 何がベストか、などということは本来、神のみぞ知ることでしょう。戦術構築、メンバー選考、交代などが、あるときは失策になり、ある時はマジックになります。その境目はわずかでしょう。大切なことは、02年トルコ戦のトルシエのように、「ここからはボーナスと思い大胆に考えた」「世界をあっと驚かせたかった」などと個人の勝手なアピールの場に落とし込むことなく、最後の最後までチームの総力を最大に引き出す努力をすることでしょう。