マニュアル君の絶望的な対応力

 先日、成人チームの試合の采配をした時の話。その日のグラウンドは2時間ごとに利用者が交代しながらほぼ一日中、様々な年代の公式戦が行われていました。

 公式戦ではグラウンドの四隅にコーナーフラッグ(旗)を立てねばなりません。そのグラウンドでは、フラッグは”原則として”使用後は管理事務所に返却します。しかし、次の枠の利用者も公式戦で使うことが明らかな場合は、前の枠の利用者が「フラッグどうしますか?」と確認し、次の枠の利用者が「そのままでいいです」と返して、大抵は設置したままにしておきます。

 私たちの試合の前の枠では中学生年代の試合が行われていました。みな体格が良く、内容もレベルもそこそこの高さがありました。その試合が終わって、私たちがいざグラウンドに入ろうとすると、四隅のフラッグが消えています。どうしたのかと尋ねると「使用後は事務所にお返しくださいとなっていたので、返しました」との返事。

 利用者一覧を見れば次の枠も利用者がいることは明白だし、隣のスペースでウォーミングアップしている姿を1時間近く見ているわけだし、そのままフラッグが使われることは誰だってわかるでしょう…と思うのですが。

 あれだけ体格が良くてハイレベルのプレーをしているのに、言われたことしかできない。場に応じた状況判断ができない。だからその年代では勝つけれど、世界に通用するような選手になれない。

 「あ~あ↘」と思いながら、気を取り直して、審判と自分たちの試合の打ち合わせ。グラウンドが使えるのは2時間。試合だけで一杯一杯の時間なので、ウォーミングアップはコンクリートの駐車場。なので、使用時間になってからキックオフまでのわずか5分(実際は3分くらい)だけが試合前にピッチでボールをキックできる貴重な時間になります。

 なので、使用時間前に審判が「選手チェック」と呼ばれる点検(スタメン背番号の確認、ピアスやネックレスをしていないか、すね当てをつけているかの確認、など)を行い、使用時間になったら一斉にピッチに出てキックオフのまでの間、寸暇を惜しんでボールをキックする練習をする、ことが通例になっています。

 その際、ルールの原則からすると、選手チェックが終わったあとではスタメンしかピッチに入れないことになっています。聞くところによれば、チェックをしていないサブの選手がピアスやネックレスなど危険な装身具をつけている可能性があるからピッチに入れるのはチェックの終わったスタメンだけに限る、ということのようです。

 趣旨はわからないでもないですが、現実にはアマチュアの試合で試合前のわずか5分に満たない短い時間に同じチーム内でキックし合う時に、ピアスやネックレスで相手選手を傷つける可能性は限りなくゼロに近いと言い切れます。なので、キックオフ前5分に「サブ選手のピッチイン不可」は誰が聞いてもバカバカしい杓子定規。ですから最近は「サブの人も一緒に蹴っても問題ないですよ」という審判も増えてきました。

 その日も「サブメンバーもキックオフ前5分の時間にピッチでキックさせてください」と審判にお願いしました。「プロとは違い、仕事や学業の合間にプレーするアマチュア選手にとって、芝の上でボールを蹴れるのは週末のみ。たった5分でも貴重な時間です。特にスタメンでない選手はピッチに出る時間が限られます。どうかスタメンと一緒に蹴らせてやってください」というのがいつもの私の言い分です。

 その日の審判は、しぶしぶといった感じで「まぁいいですよ」と。しかし次には「誰がサブかが明確にわかるようにビブスか違う色のシャツを着させてください」と。「どうしてですか?チェックの終わったスタメンがサブと混じってキックする2~3分の間に、ピアスやネックレスを付け直したりするとでも思うのですか」と私。

 「ルールの原則ではサブはピッチに入れないことになっていますから、一応」と審判。「ルールのことは知っていますが、バカバカしくないですか?ルールの趣旨は、危険防止ですよね。わずか2~3分、寸暇を惜しんでボール蹴る選手たちがどんな危険な行動をする可能性があるというのですか」と私。「でもルールの原則は原則だから」と一歩も引きませんという様子の審判。

 フラッグを事務所に返してしまった中学生も「あ~あ↘」ですが、この審判のどうしようもない頭の硬さも「あ~あ↘」ですね。私が受験担当者だったらこういう中学生は間違いなく不合格にしますし、私が企業の人間だったら、こういう審判のような人は絶対に部下にしたくないです。