メサイアコンプレックス?

 公営グラウンドで、自分たちの使用時間になったので入場し、設営の準備をしていると、選手たち(成人)がグラウンドの入口付近で誰かに何かを言われています。そのうち一人の選手が困惑した様子で私を呼び戻しました。

 行くと、選手たちの前で一人の男性が興奮しています。その人は「あなたですか、この人たちの指導をしているのは」と私に詰め寄ってきます。選手たちが一体どんな失礼をしたのかと身構えていると「この人たちは、入場するときに正しい入口を使わずに、フェンスを乗り越えた」と言います。

 

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 そのグラウンドは人工芝のピッチと観客席が1mほどのフェンスで区切られています。扉のついたピッチへの入口は全部で三カ所しかありません。その時は、入れ替え時間だったために、彼の指導するラグビー選手(中学生か、高校生と思われます)が出入口付近に大勢たむろしていて、すんなり入口を使用できない状態でした。だから当方の選手たちはスムーズにピッチインできるように、正規の出入り口を使わずに、1mほどのフェンスを乗り越えたというわけです。

 「ちゃんと入口があるのにフェンスを乗り越えるとは何事か!!!」「子供たちが見ているのに、どうしてくれる!!!」と彼は息巻きます。対応した私が「どうしてくれると言われてもね...」と困惑していると「謝れ、謝るべきでしょう」とさらに興奮します。

 「いやいや、まず落ち着いて下さい」となだめると、「あんたは誰だ、名前を名乗りなさい」と身を乗り出してきます。「私は間違ったことを言っていないから、正々堂々と名乗れますよ。あんたはどこの誰なんだ」と鬼刑事も顔負けの迫力で迫ってきます。

 浮気が発覚したタレントを追究する芸能レポーターと同じで、落ち度がある相手に「こちら側は正義である」ということが明確な時、人は遠慮会釈なく攻撃的になります。正義を振りかざして相手を追い込むことの興奮に酔いしれるのです。

 ああ芸能レポーターと同じケースだな、と感じた私は、「謝れ」と連呼する彼をなだめながら、「わかりました、彼らには次からは乗り越えないように、よーく言い聞かせておきますね」と笑顔で対応して何とか帰しました(笑)。

 このように倫理、道徳、社会正義を振りかざして他者を追究する心理の一つに、メサイア・コンプレックスというのがあるそうです。自分はメサイア、つまり救世主であるから、汚れた世間、堕落した世間にもの申して自分が正しく導いてやるのだ、という心理なのだそうです。

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 こうした心理に陥る人の裏には、欲求不満にまみれた自分、うだつのあがらない自分という影の部分があるのだそうです。現実世界で抑圧され、矮小な自分という心理を持つからこそ、誰もが「悪」とわかる事象を見つけては激しく糾弾して溜飲を下げるのだそうです。倫理、道徳の面で「よろしくない」という事象に関しては自分が100%「正義」の側に立てますし、周囲からの賛同も得られやすく、容易に他者に対して居丈高になれるのです。

「こどもたちの前で間違ったことをしたのだから謝れ」と興奮していた彼の様子を見ていた我がチームの大学生の選手が、ポツリといいました。「ああいう人って、カバンを綺麗に並べているチームは強いんだ、みたいなこというタイプなんだよな、生徒がかわいそう」

 さて、ルールとマナー、常識をタテに「フェンスを乗り越えたから謝れ」と興奮していた彼の生徒と父兄ですが...駐車場から競技場に通じる通路を完全に塞ぐ形でたむろしていました。通れないので「すみません」と声をかけたものの、ガヤガヤとお喋りに夢中で一向に気付いてくれません。「あの~」と声のトーンをあげてようやく通路を空けてくれました。「ここは通路だから大勢で塞いではマズイ」と気付いてくれたかと思いきや、私が通り過ぎると同じように道を塞いでガヤガヤ。人に文句を言う前に、まず、自分の身内のマナーを正しましょうね(笑)。

 それに、彼自身、規定の時間になってもグラウンドを立ち去らず、私たちの使用時間になっても一定時間、ガミガミと持論を展開し続けて活動を妨害したことも、使用時間に関するルール違反、ないしはマナー違反ですよね。私が彼と同じ口調、表情で「試合の準備を滞らせたことを謝れ、規定時間を超えてグラウンドに滞在した分だけ利用料を支払え」と言ったら、彼はどう反論するのでしょうね。

(写真はいずれもイメージです)