スポーツ大賞

 明けましておめでとうございます。

 例によって一日遅れで、独断と偏見満載の永井洋一2020年スポーツ大賞を発表します。大賞の受賞はボクシング世界バンタム級チャンピオンの井上尚弥選手です!!!

 井上選手の圧倒的な強さはボクシングファン、スポーツファンのみならず、国民の皆様の大多数がご存じのはず。しかし受賞理由はその強さではありません。彼の日頃の努力と自分の限界を極めるための姿勢に最大の賛辞を送りたいと思います。

 肉体を削って過酷な減量を行い、体力の限界まで追い込むハードトレーニングを課して鍛えることなどは世界ランカーなら誰でも行っています。彼が優れているのは、試合のほとんどをノックアウト(KO)で決める超ハードパンチを持ちながら、倒すことばかりを考えるのではなく、12ラウンドをフルに戦う想定もした多様な戦略を持っていること。そのために、KO狙いに行く動きと、しっかりポイントを取って判定で勝つための動きとの両方を常に準備し、試合の流れに応じて冷静に使い分ける判断力を磨いていることです。

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 倒すか倒されるか、という「出たとこ勝負」の殴り合いをするのではなく、対人競技としての戦略、戦術をしっかり考え、状況に応じて使い分ける「引き出し」をいくつも持てる準備をしている。これはあらゆる種目のアスリートに通じる「クレバー」な姿勢といえるでしょう。

 そして私が「これはすごい」と思った極めつけは、井上選手が「自分がダウンをした時にどう切り抜けるか」という想定までしてその対策を行っていることです。ご存じのように井上選手は選手生活で一度たりともダウンしたことがありません。強打をくらってフラついたということさえほとんどなく、ドネア選手との死闘で一度だけ、顔面右にクリーンヒットをうけ、眼窩底を骨折するダメージを受けた経験があるくらいです。

 常に圧倒的な内容で勝っているのに、自分がダウンをした時の練習までしているというのは、すごいことですよね。ちなみに、その練習とは、グルグル回って目を回してまっすぐ歩けないような状況を敢えてつくってから打ち合うのだそうです。ダウンの経験のない井上選手は、他の選手に「ダウンした時ってどういう感じなのですか?」と聞き「目が回って足元が定まらない時に似ている」と教えてもらい、そのような練習ををしているのだとか。

 圧倒的な強さを誇る選手が、あらゆる場面を想定して冷静に戦う力を養っている上に、現段階では確率的にはかなり低い「ダウン」まで想定して練習している。これでは他の選手はかないませんよね。

 サッカーも同じ。上手くて意欲的な選手は自分で研究して努力する力もあるから、どんどん上手く、強くなる。そういう選手は練習時の集中力も高く、練習に向かう姿勢も真面目。欠席もほとんどない。一方、人一倍努力が必要な選手ほど、サッカーに向き合う姿勢が適当で、練習時の集中力も低い。サッカー以外の用事で欠席することも多い。だから、もともとあった力の差はどんどん開くばかりになる。

 指導者仲間とずっと話してきていることですが、スポーツの場合、生まれ持った資質は「肉体的」なものが何よりも一番、強力なのですが、同じくらい「精神的」「心理的」資質が占める部分も大きい、と。むしろ今は、後者の方が多いかもしれないと思っています。