アスリートは政治の話をしてはいけない????

 雀士・黒川さん(笑)の一件に芸能人が批判的コメントを発表したことを批判する人がいました。曰く、政治をよく知りもしないくせに生意気を言うな。また、アメリカで黒人男性が警察官に殺されたことに抗議の声を上げたテニスの大坂なおみさんにも批判の声があったようです。曰く、アスリートは政治の話をするな。スポーツだけしていればいい。

 実にばかばかしい話です。人間で政治に関係のない人はただの一人もいません。生まれた瞬間から人権が生じ、戸籍が与えられ、法の規制や保護に囲まれて生きていきます。いや、人間だけではなく、ペットや動物だって、いろいろな法律、条例にかかわっている。電気をつけて、水道を使って、ゴミを捨てて、道路を歩いて、交通を使って、学校に行って、仕事やバイトでお金を稼いで、お金を払ってモノを消費して、危害が加えられたら警察に頼って、病気になったら医療の世話になって、互いの利害が衝突したら裁判に頼って...我々の人生の森羅万象が「政治」にかかわっているのです。

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 買い物中のママたちの「最近、野菜が高くてこまるわね、何とかならないのかしら」という会話の中にも、消費税、流通の合理化、商店の経営と法人税など、政治的要素が内包されています。自分たちが生きやすい世の中にしていく。そのために、皆がいろいろ知恵を出し、意見を出し合って世の中を変えていく。それが政治です。

 日本は住民の全てが政治に参加する方式ではなく、自分の意思を代弁してくれると期待できる議員に託す方式がとられています。ですから、その議員たちが何をしているかを監視し、いけないと思ったことをしたら批判して正していくことを、全ての人々が行わねばなりません。議員たちが行っていることに口出しすべきではない、というのは、まったくもって間違った考え方です。

 特にスポーツは「政治とは別」と強調されますが、政治と関係しないスポーツはあり得ません。その最たる象徴がオリンピックです。オリンピック招致に政治的策略を絡めない元首など存在しません。招致にともなって進められる建設、施設整備にかかわる業者と政治家の関係なしには大規模な開発、整備はすすみません。コロナ禍でワクチンの開発すら目処が立っていないのに、「来夏に開催する」とアベノマスクの送り主(笑)が息巻いているのは、自分の首相任期が秋に終わる前にどうしても「二度目のオリンピックを開催した首相」という名誉がほしいからでしょう。

 日本の各スポーツ団体の会長とか顧問とか理事とかを調べてみましょう、ずらりと政治家の顔が並んでいます。許認可を得たり交付金を得たりするのに、政治的な力が大きい人物と密接な関係を築いていることが有利だからです。また政治家も、そのスポーツ団体の構成員の数を利用して知名度アップを狙うのです。

 トップアスリートも政治家同様、知名度は高いので、その発言や行動は影響力を持ちます。でも、その発言や行動をどのように受け取るかはスポーツファンそれぞれの理性です。スポーツのプレーも好きだし、言っていることも好き...でもいいし、その反対でもいい。そのアスリートの思想、哲学、信条が支持されるか否かは、発信される内容によるでしょう。

 かつてボクシングのモハメド・アリさんは人種差別と戦い、テニスのビリー・ジーン・キングさんは女性差別と戦いました。それぞれの発言、行動がアメリカ社会の改革に多大な影響を与えたことは確かです。そういえば、現在、女性アスリート長者番付で大坂なおみさんが世界トップなのだとか。これもキング夫人の努力があってこそのことなのです。