カウンターは日本サッカーの将来につながらない?

 フランスの優勝でW杯が幕を閉じました。W杯で示された戦術トレンドはその後の4年間、世界中のサッカーに影響を与えます。
 かつてスペインが世界のサッカーの主役だったころ、とにかく細かくパスをつなぐことにこだわるチーム、選手がやたらと増えました。バルサのユニフォームを着て、メッシやイニエスタの名前を背中につけた選手がそこかしこに増えて、まるでタテパスやロングフィードは「悪の見本」であるかのような主張がまかり通っていました。
 また、守備意識を高めた戦い方、あるいは、それをベースとするカウンターアタックについては「リアクションサッカー」と名付けられ、あたかも卑下すべき外道の戦術であるかのように評論されていました。そのため、リアクションサッカーとくくられた南アフリカW杯ベスト16の岡田監督のチームづくりは、「つまならいサッカー」「結果は出たものの、日本の将来につながらないサッカー」と評されました。
 そんな潮流に疑問を抱いた私は、各種スポーツをはじめ。将棋、チェスなど勝負事の関係者に取材を重ね、実はカウンターアタックが勝負事では最も効果的な戦術と考えられていることを拙著『カウンターアタック・返し技、反撃の戦略思考』(大修館書店)という本にまとめました。
 今回のW杯を観て、戦術トレンドがカウンター重視になりつつあることが確認でき、自分の視点がさほど間違ってはいなかったと安堵しました。決勝を戦ったフランス、クロアチアを筆頭にベルギー、スウェーデンデンマーク、ウルグァイ、ロシア、メキシコなど、カウンターによる攻撃のオブションが豊かであるチームほど、上位に進出する率が高かったと思います。
 一方、細かいパスで局面を打開しながら最終的に全体を崩すという戦い方にこだわるチームは、スペイン、ブラジルを筆頭に、大会の主役にはなれませんでした。グループリーグでも、エジプト、モロッコサウジアラビアセルビアなど、パスはよくつながってポゼッションはできていても...というチームはいくつも見られました。
 日本のサッカー界ではここしばらくの間「つなぐパス」が何より大事で、「タテに急ぐ」ことはタブーに近く、それをすれば「蹴ってくる」チームと揶揄されました。ハリルホジッチ監督に対しても「すぐにタテに蹴れという」という選手の不満があったのだとか...。さてさて、そんな日本のサッカー界で、カウンターが主役の座に躍り出た今回のW杯がどのようにとられられるのでしょうか?
 日本代表が息の根を止められたのがベルギーの高速カウンター。カウンターを「リアクョンサッカー」だと卑下していた評論家たちは、日本の敗戦を「日本は自らアクションを起こして2得点したが、ベルギーの決勝点はリアクションにすぎないのだから、日本の方が良いサッカーをしていたのだ」などど評論するのでしょうか?
 それとも、昭和20年8月15日を境に、前日まで「お国のため、天皇陛下のために命を捧げよ」と言っていたのに、「これからは民主主義だ」とあっさりと身を翻したように、「これからは日本もカウンター重視だ」と涼しい顔で評論するのでしょうか?
 堅固な守備からカウンター繰り出す戦術が「つまらない、日本サッカーの将来につながらない」と声高に言っていた人たち、まさか君たちも、今はやりの「手の平返し」をするのではないでしょうね?