オレが育てた?

 ドーピングによるロシアの出場停止、極寒の式典会場、強風の競技会場、転倒者続出の競技者、観客輸送バスの不手際、ガラガラの席を埋める動員チケットの観客、欧米テレビにへつらった早朝・深夜の競技時間、そして、あからさまな北朝鮮の政治利用...どう考えても「成功」とは言えない平昌五輪が終わったと思ったら、今度は夏期五輪・レスリングのスキャンダル。伊調馨選手の周囲が騒がしくなっています。
 栄監督のパワハラが過ぎるのだとことです。現時点では言い分は食い違っていますが、伊調さんによれば、栄氏が伊調選手の練習場所や指導を受けるコーチに対して必要以上に干渉してきたとのこと。
 よくありますよねトップアスリートを「オレが育てた」と自慢したがるスポーツ指導者。そして、その「恩師ズラ」をひけらかし、「教え子」にあらゆることを自分の言うなりにさせようとする御仁。
 よく講演などで話すのですが、世界を狙うような超人的なアスリートは、育ててて伸びるようなものじゃありません。極端な話、もともとスーパーなのだから、誰が育てたとしても、いずれどこかで頭角を現します。例えば野球のイチロー、松井、大谷...誰か特別な人に習わねば彼らの才能が眠ったままで終わっていたと思いますか? 彼らはどこで誰に教わったとしても、いずれあのようになる資質があったのです。彼らと接した指導者は、そんな人並み外れた逸材と、たまたまどこかのタイミングで「巡り会った」だけにすぎません。
 しかし、指導者は勘違いしてしまう。自分が名選手を育てた「恩師」だと思い込んでしまう。いつかサッカーの元日本代表にこう問いかけました。「あなたの素晴らしいサッカーセンスが、あの出身高校の泥臭いプレイスタイル、あの先生のめちゃくちゃな指導でよく開花したものだなと驚いているのですが...」すると彼は言いました。「ああ、先生の指示や話はぜ~んぶ聞いてるフリして聞き流してましたから(笑)」それを知らずに、その先生は自分が彼を名選手に育てた「恩師」だと思い込んでいるわけです。
 栄氏は、吉田沙保里選手をはじめ、日本の選りすぐりの素材の最後の最後のステージを「たまたまた」受け持っただけなのに、彼女らの、一から全てを自分が「育て上げた」と勘違いしているのではないですか? そして、その「教え子」が「恩師」に何もかも全てを捧げないとはけしからん、という身勝手な思い込みが過ぎるのではないですか?
 栄氏は、指導者として選手をサポートし、選手が最大の結果を出せるよう尽力するのが仕事のはず。それがいつのまにか名選手を輩出したという「おれの栄誉」がほしくなっているのではないですか? そうなったら指導者オワリです。
 よく問題にされるスポーツ指導現場での暴言、暴力。なぜそんなことが起きるのか。実に簡単です。子ども、選手の育成を念じるのではなく「自分が勝利監督になりたい」という欲が強すぎるからです。つまり子ども、選手のためではなく、自分のエゴの実現のために指導をしているから、子どもや選手の失敗や敗戦に腹が立ち、暴言、暴力につながる。
 栄さん、自分の欲を満たすために伊調さんをコントロールしたいと思っているなら、指導者を辞めた方がいいですよ、今すぐに。本当の名指導者とは、まったく誰にも相手にされないような、資質に恵まれない素材を育てて一流にする指導力がある人。恵まれた資質の選手を教えて伸ばすことなど、誰にでもできる一番、簡単なことなのですよ。