亀の歩み..しかし着実に

 私の主宰するサッカークラブでは公式戦の参加は3年生からです。
 他のほとんどのクラブが1年生から本格的なチームづくりをしている中、2年遅れでのスタートは圧倒的に大きなハンディキャッブになります。案の定、毎年のことなのですが、大会初日は大敗してしまいました。
 言うまでもなく、子どもは早期に訓練を本格化すればするだけ、目前の結果は出てきます。特にスポーツは、早くから本格的に活動した時間が長いほど、確実に勝利に近づきます。しかし目前の勝負に勝つための指導がその子の将来の糧になるか否かは別問題です。
 サッカーに限らずスポーツ指導をする団体の多くが競技実績を全面に押しだし「強いから良い指導」と言わんばかりですが、そうした環境で芽が出るのは生来の素質に恵まれたごく一握りの子たちだけで、99%はその「何年に一人いるかいないか」の素材のために「使い捨て」されるのです。
 サッカーの場合、プロになれのは4万人に一人です。同じ学年だけでも何百校に一人、という確率です。チームのエース、区大会のスーパースターくらいの子は全国にゴロゴロいるのです。その程度では、将来、全く話にならないのです。だから大抵の「神童」も結局、15年後には確実に「ただの人」になるのです。ですから、少年時代のスポーツには競技としての勝ち負けの他に大切なことがたくさんあるのです。
 1、2年生、つまり6歳、7歳の子どもたちのやることで、勝った負けたと大人が熱くなるのはいかがなものか...レギュラーとその他の子との差が鮮明になるようなことがこの年齢に適当なのか...と私は考えます。そんなことから私たちは3年生まで公式戦の出場を見送っているのですが、実を言うと3年生でも公式戦はまだ早い、というのが本音です。しかし、そんなことを言っていると世の趨勢からは「浦島太郎」状態になってしまうので、3年生からの公式戦参加はギリギリの妥協です。
 しかし面白いもので、過去を振り返ると、3年生の時にズタズタにされた相手に、5年生、6年生になってリベンジなどということは決して珍しくありません。3年生の時に完膚なきまでにたたきのめされた子たちが、6年生になって区大会の決勝まで進出というケースも2度ばかりありました。2部リーグでしたが、市大会で優勝まで勝ち取ったこともありました。3~4年のスパンで考えれば、確実に色々な成長を見届けることができます。大切なことは、、個々のレベルで心身両面にどれだ成長があったか、ということです。その点を忘れなければ、何も1、2年生から周囲の大人が勝った負けた、強い弱い、と熱くなることはないのです。
 さて、我が3年生たち。今回はまだ試合のルールさえよくわかっておらず、何をやっているかも良くわからないまま目を白黒させていうちに(笑)大敗したことでしょう。しかし、試合と試合の合間にふと見ると、待機場所においた荷物や水筒の間をぬってドリブル練習をしているではありませんか!!!。もちろん私が指示したわけでなく、彼らが自らはじめたことです。
 そうです。こういうことが成長なのです。何が彼らのスイッチを入れたのかはわかりませんが、彼らなりに「上手くなろう」という思いが持ち上がったのでしょう。その日までは足でボールを扱うより手でボールを抱えている時間が長かった子たちが、自らドリブル練習の形を工夫してつくり実践しているのです。「自ら進んで課題に取り組む」といってはオーバーですが、少なくともそういう心理の萌芽があったことは確かです。