弱肉強食のなれの果て

 八王子で中学生がバスの運転手をナイフで刺すという事件がありました。幸い運転手のキズは深くなく、また中学生もほとなく確保されたようです。

 気になったのは、この騒動のきっかけが、運賃支払い時の老人のもたつきだったらしいことです。支払いに手間取っている老人に腹を立てた中学生が乱暴な行動を取り、それをとがめた運転手ともみあいになり.....という経緯と報道されています。
 私はかねてから、少年スポーツで勝利第一主義、弱肉強食の論理を推進することの弊害を叫び続けています。それは、そうした心理の延長に、相対的な力の強弱で全てをかたづけてしまおうようとする行動が待っているからと言い続けています。強者にのし上がることが発言、態度の大きさを保証するという考え方を助長するのです。
 そうした心理で育てられた子は、自分が相対的な強者となった時に、その立場を誇示することはできても、弱者を思いやることができません。弱い者はどけ、邪魔だから端に寄れ、ウザイからいなくなれ、悔しければ強くなってみろ....と。そうした視点で町に出れば、老人は若くて元気な者の合理的かつスピーディーな社会の邪魔者くらいにしか思えません。
 ウザイんだよ、早くしろよ、早くできないならバスなんか乗るなよ、モタモタ歩かれてじゃまくさいから家でおとなしくしてろよ....そんな少年の声が聞こえてきそうです。彼は、自分も60年もすれば逆の立場になるということが微塵も想像できないのです。強弱など相対的なものであり、いずれ何らかの状況で、自分は弱者側にまわるのです。
 「なにモタモタしてんだよ、早くしろよ」とキレてしまうのではなく、「何かお手伝いしましょうか」と手を貸す少年を育てる社会にしたいものです。でもね、小学生から受験で仲間を蹴落とす訓練をしつつ、スポーツでも勝て勝て勝てと追い立てられていれば、そういう人間味はとうてい育ちませんよね。