人としての成長とスポーツ

 前回、宮城の私立高校陸上部員10人が揃って転校する話を採り上げました。高校生のアマチュアアスリートとして、いかがなものか、という話でした。それとは正反対の素晴らしい生徒たちの話が22日付け朝日新聞に紹介されていました。

 福島の富岡高校女子 サッカー部は4年連続で全国大会に出場する強豪。しかし、原発避難後に再び戻った部員は10人。ルール上試合が成立するのは7人以上。5月の大会には負傷者もあり9人で出場。リーグで1勝するものの、敗退。6月の大会も9人で初戦敗退。全国大会への道は途切れました。
 10月、10人で挑んだ大会は決勝まで進んだものの走り負けて0-5の敗戦。そこで6人の4年生は引退し、残りは4人に。残された部員は、(試合成立の)7人でもいいから大会に出たい、と話しているとか。
 宮城の戸倉中学は校舎が壊滅、20km離れた廃校で授業を受けつつ女子バスケットボール部でプレーできる部員は4人。女子テニス部から助っ人を入れて大会に参加することになったそうです。1月、最初の試合は0-103の大敗。2月、2戦目は26対63。キャブテンは「点差が縮まっている」「私、この仲間で絶対に1勝したいんです」と前向きに話しているとか。
 いいですね。彼女たちはいずれも、ポンと簡単に所属先を変えてプレーした生徒たちよりも、何百倍も多くのことを学んだことでしょう。とてもまともにプレーできるようなチーム状態ではないのに、敢えてプレーする。どのように戦うか、という工夫のみならず、スポーツすることの意味、なぜスポーツするのかという哲学、などを真剣に考えた瞬間があったはずです。
 もちろん、伸び盛りの年頃に、選手としての成長が停滞するような環境が続くことはアスリートとしては好ましくないでしょう。しかし、この2校の選手それぞれは、簡単に所属先を変えた陸上部員よりも、間違いなく、確固たる「人間力」を身につけているはずです。それは、後にトップアスリートの仲間入りをした時も、また、それがかなわず社会人の一人として生きる時も、大きな人間的成長の支えになるはずです。
 転校した陸上部員が、その後、オリンピックや世界選手権で海外勢に立ち向かえるような立派なアスリートになるのかどうか、皆で注目したらいいでしょう。少なくとも前回のオリンピックでは、日本の男子長距離選手たちは惨めな記録しか残していません。